【市場価値倍増の心得 五箇条】

 私が今、大企業にいたとしたら、先々に備えて自分に課していたであろう「市場価値倍増の心得 五箇条」を紹介したい。

【その1】 世代や考えの異なる友人を、毎年3名ずつ増やす

 例えばだが、①20歳以上年下の社外の仲間、②起業家、③(在日)外国人の友人──を毎年1名ずつ増やすと決める。

 自分がまさにそうだが、年配者は放っておけば、自分が正しいと思って視野が狭くなりがちだ。全く異なる世界の人と友人になるためには、年老いてなおかつ自己否定できる頭の柔軟性と心の鮮度の維持が不可欠になる。そういう努力を続けるオヤジが過去を語れば、若手も耳を傾ける。さもないと煙たがられる。

 ■「柔軟性維持装置の重要性」
 ──自分の本能と戦うことで、人はいつまでも成長できる


【その2】 「大会社」ゆえに許される贅沢に慣れない

 例えば、会社の特権の利用は70%までに控えるようにする。具体的には、極力、車(タクシー)に乗らず電車で移動する、ホテル宿泊内規で認められる基準より一つ下のクラスに泊まる、飛行機ならエコノミークラスに乗る、顧客の接待は基準上限の価格の高い場所を選ばず、そのぶん知恵を絞る。たまには個人の金で人とつきあう。

 他人の金なら上限まで使うという姿勢は急には直らない。そもそも下品である。金はとても重要、でも金でできることには限界もある。代わりに脳みそに汗をかかせる! それが日本の美徳ではないか。

 ■「儲けあってこそ使える金」
 ──まずは節約、そのうち、金使いが上手になる。


【その3】 会計を学ぶ

 飲んだくれながらでも、バブル時代の経験を語れば、若手には教訓となる。そこに、多少の数字を交えると、知的に見えてさらに説得力が増す。

 私は目的なき資格に意味はなしと考える。ただ、簿記3級だけは年老いても是非取ることをおすすめしたい。決算帳簿が読めるようになると、金の出し入れへの感受性が高まる。年配者はビジネス勘はあるので、その経験に数字で後講釈をつける力を得られる。

 レストランでも、パチンコ屋でも、製造の現場でも、金融でも…すべての商売は、単価と回転率や稼働率などに分解して考えるとわかりやすい。経験に会計を通じて養われる数字勘が備われば、鬼に金棒だ。

 ■「とにかく会計を学ぶ」
 ──会計知識は、経験知を大きく見せる。言葉の説得力を増す。


【その4】 自分の手を動かす

 若手の仕事を奪うな!という視点はさておき、いつまでも自らの手を動かす意識は大事だ。

 起業した後、たかだかプリンターの設定に数時間かかった時に、愕然とした。昔はプログラミングもどきの作業もしていたのに! 今の時代、せめて人並みに技術の発展に追いついておかないと、思考能力にも影響が出るから要注意だ。

 大げさな話ではなく、まずは「ワード」「エクセル」「パワーポイント」などの資料を自分で作る。しかも文字だけがパンパンに詰まっているようなものではなく、少しイラストやグラフなどを入れて分かりやすいものを自分で作っていれば、なお良し。自身の手を動かして分析し、それを分かりやすく表現し続ければ、思考能力は後退しない。経験をうまく伝える努力は、自分の思考力をも高める。

 ■「自分の内面の劣化を見逃さない」
 ──手を動かし続ければ、頭も回転する。


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