こちらは、見てはいけないと言われた「質問リスト」をちらちら見ながら、必死に事前に用意した質問をする。先方は、お金を借りたいから真摯に質問に答えてくれる。しかしある時、年配の経営者が「おれはこんなに若い人間に審査されるのか…」とつぶやいたときに、申し訳なさのあまり土下座したくなったのが正直なところだ。
それからは、格好つけずに相手の懐に飛び込む質問スタイルに変えるよう努力した。所詮、若造は若造…若造らしいやり方があるはずだと気づいたのだ。
上司に、「テレビを漠然と見るなよ!」と叱られたのもヒントになった。アナウンサーをよく見てみろ。聞かれている側がとても話しやすそうにしている人と、そうでない人とに分かれるだろう。どう聞いたら相手が本音を語ってくれるのか、ヒントを探れというメッセージだった。

任せてもらったから、できるようになった
昔は現場研修を総合職全員に課す会社が多かった。私は素晴らしいと思う。私が保険会社に勤めていたときを例に挙げれば、内勤の総合職2名がひと組になって行う保険の販売実習を経験した。そのとき実習の成績がビリになって、正直かなり気持ちがへこんだことがあったが、そのあと、新人の営業職員に同行して販売指導する研修ではかなり実績をあげた。年配ではあったが保険業界では新人だった営業職員の頑張りを応援したい!という気持ちが強かったためだ。
現場研修を通じて若手が、悔しい、へこむ、なにくそ、と思う、人と共に喜ぶ、しつこくチャレンジする…という失敗と成功の経験を重ねる仕組みが当時にはあった。それ以上に、その成長を暖かく見守る余裕や懐の深さが、当時の会社や上司にはあった。
数え上げればきりがない、今から思えば本当にありがたい実戦経験の数々。国にも企業にも余裕があった。勢いもあった。成長していた。だから、極端な人手不足の下、若手、さらに若手へと責任を委譲していった。我々はこうして育ててもらったのだ。頭が良いからできたのではなく、任せてもらったからできるようになったのだ。
腹をくくらないと乗り切れない壁もあった
上司は上司で、先日発売され話題となっている『住友銀行秘史』(私はサラリーマンとしては、こうした内実をつぶさに書籍に書くことを受け容れられずにいるが…)にも描かれているような、結構ぎりぎりの決断を迫られていた時代でもあった。モーレツサラリーマンとして腹のくくりがないと乗り切れない壁も多かったはずだ。
Powered by リゾーム?