投資で台頭するアジア勢

 確かに、VRベンチャーの数で言えば、米国がアジアなどに大きく差をつけていると見られる。ただ投資という局面で見ると事情が異なってくる。「(画像・空間認識など)要素技術については米国のファンドも積極的に資金を投下しているが、コンテンツ系などはアジアのファンドの存在感が圧倒的だ。特に中国と日本のファンドが活発に動いている」と山上社長は言う。

 中国ではスマホメーカーが数多く立ち上がり、低価格なスマホを相次ぎ投入してきた。ただ足元ではスマホ市場の拡大が一巡。メーカーは次の成長の芽を探そうと躍起になっている。そこで有望視されたのがVRだ。自社のスマホとVRコンテンツなどを組み合わせることで差異化を図ろうと、メーカーがファンドを組成し米国で有望なベンチャーに相次ぎ資金投入しているわけだ。

 事情は日本もさして変わらない。スマホ向けゲームで成長したコロプラは、そこで得た収益をVRに回している。さらにグリーとミクシィも今年4月、米国のVRスタートアップに投資するファンドを立ち上げた。投資総額の上限は1200万ドルで、ファンドにはColopl VR Fundも加わっている。グリーは従来型携帯電話、いわゆるガラケー向けゲームで成長したが、スマホ対応では出遅れており、VRではその轍を踏むまいとしている。

 ミクシィも同じだ。2013年に配信したスマホ向けゲーム「モンスターストライク」のヒットがなければ、経営危機に陥っていた可能性が高い。各社はVR市場の早期立ち上がりを見越して、モバイルサービスで蓄積した経営資源をここにシフトさせている。

 投資面でアジア勢の存在感が強まっているのは、これまでのIT産業のエコシステム(生態系)からすれば新しい動きと言えるだろう。課題は、国内での投資対象がまだ少ないことだ。Colopl VR Fundも国内投資はほとんどない状況。「(国内ベンチャーは)ここから挽回して欲しい」と山上社長は期待する。

 国内でベンチャーも生まれ始めてはいる。例えば昨年10月に設立されたナーブというベンチャーは、CADデータや360度動画といったコンテンツをクラウド経由で容易にVRコンテンツに仕立て、様々なデバイスに配信する事業を展開している。今年5月には国内ベンチャーキャピタル最大手のジャフコなどから2.5億円の資金を調達するのに成功したと発表。大手旅行代理店や不動産会社へのサービス提供も決まった。「VR市場での『勝ち方』は米国でもまだ確立していない。我々にも勝機はある」と多田英起社長は意気込む。

VRクラウドを手がけるナーブが大手旅行代理店向けに提供する360度動画
VRクラウドを手がけるナーブが大手旅行代理店向けに提供する360度動画
[画像のクリックで拡大表示]

 VRに資金が集中する様を「バブル」と一言で片付けるのは簡単だ。だが、そこにアジア勢が台頭しているという現状を利用しない手はない。国内外に投資するアジアのファンドを資金面、事業面の双方でうまく活用しながら、黎明期にある市場で一定のポジションを確保できれば、国産VRが将来一気に花開く可能性もある。5000万ドルの投資余力を持つColopl VR Fundが食指を動かされるようなベンチャーが国内でどれだけ登場するか。国内のVR産業の行く末はその多寡で決まると言えるかもしれない。

まずは会員登録(無料)

有料会員限定記事を月3本まで閲覧できるなど、
有料会員の一部サービスを利用できます。

※こちらのページで日経ビジネス電子版の「有料会員」と「登録会員(無料)」の違いも紹介しています。

※有料登録手続きをしない限り、無料で一部サービスを利用し続けられます。