カメラの目的を「撮る」から「シェア」へ

 リコーがシータの開発に着手したのは、今から5年以上前。2010年の頃だという。当時はスマートフォンが急速な勢いで普及している最中で、デジタルカメラ市場の閉塞感は否応なく強まっていた。

 「当時感じていた市況の悪さはその後、さらに厳しくなると踏んでいました。スマホというハードウエアだけではなく、TwitterやFacebookという新しいコミュニケーションスタイルが台頭する中で、映像表現もまた、時代に合ったコミュニケーションスタイルをベースに考える必要があるのではないか、と議論していました」(野口氏)。

 その中で出てきたのが、シータの構想だった。特別なシーンだけを撮るのではなく、スマホを使って何気ない日常を撮ることが世界中で普通になっていた。ならば自分が今いる周りを丸ごと撮れるカメラにしてしまえばいいのではないか。従来、「撮る」ことを目的としていたカメラの目的を「シェア」に転換する。そして、スマホで「見る」ことを前提とする。ならば、カメラ自体はシンプルにするべき──。

 そこから「360度をまるっと記録するカメラ」「機能をそぎ落とした筐体」をベースにするシータの基本構想ができたという。特に、筐体については、シャッターボタンと、動画と静止画を切り替えるボタンのみとし、明るさの調整など、従来カメラが“必須”としてきた機能を無線でつなぐスマホに「任せる」ことにした。それによってシータの外観はよりスリムでシンプルなものになった。大きさはICレコーダー大だ。

 2013年に初代シータを発売した際、飛びついたのはデジタルに詳しい人やアーティストだった。

 「ただ、まだ“高いおもちゃ”という感じで、一般の人に浸透する兆しは見えなかった。100人に見せたら100人が『おもしろい』とは言ってくれるのですが、おもしろいけど何に使うの、となってしまっていました」(野口氏)

 シータの認知度は、想定通り「シェア」の力によってじわじわと高まっていった。2015年以降、FacebookやInstagramなどのソーシャルメディアで360度コンテンツがぽつぽつと見られるようになっていった。さらに、米国のニューヨークタイムズやCNNなどが360度の映像を配信し始めたり、不動産業者が物件の紹介に利用し始めたりと、企業による利用も広がっていった。

Facebookは2016年6月から一般利用者に対して360度コンテンツのアップロード対応を開始した。利用するカメラの例として、筆頭にシータが掲げられた
Facebookは2016年6月から一般利用者に対して360度コンテンツのアップロード対応を開始した。利用するカメラの例として、筆頭にシータが掲げられた
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 「SNSのタイムラインに流れてくるコンテンツや報道などで映像を見た人が、これなに?ということになる。それまで『何に使うの』と思っていた人たちが、『こう使うと面白いのか』と気付き始めてくれました」(野口氏)

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