リコーの全天球カメラ「THETA(シータ)」が存在感を増している。ワンショットで周囲360度の全てを撮影できるのが特徴で、シータで撮影した静止画や動画を対応ビューワーで閲覧すれば、試聴者が好きなアングルでコンテンツを楽しめる。

 例えば、結婚式をシータで撮影すれば、360度の範囲内に映っている新郎を見ることもできるし、同じ瞬間に両親がどんな表情をしているのかを見ることもできる。ちなみに、「θ(シータ)」は角度を表す記号として用いられるギリシャ語アルファベットだ。

 こちらのYouTubeにアップロードされている動画はシータで撮影されたものだ。パソコンから見る場合、動画を右クリックしながら右左上下に視点を動かすことができる。スマートフォンであれば、スマートフォンを上下左右に動かすことで見たい方向を見られる。

2015年10月に発売を開始した「THETA S」。2013年に初代機を発売して以降、3代目の製品となる。2016年7月時点で、市場価格は3万8000円(税込み)程度
2015年10月に発売を開始した「THETA S」。2013年に初代機を発売して以降、3代目の製品となる。2016年7月時点で、市場価格は3万8000円(税込み)程度

 撮影者の意図によって切り出された範囲内でしか見られなかった映像や静止画の世界をガラリと変えたのがシータだ。シータが存在感を増してきたのは、シータ自身の性能やマーケティングによるものだけではない。「昨年の秋くらいからFacebookやYouTubeなどがビューワーとして対応し、ヘッドマウントディスプレー市場が勃興するなど、市場が一気に盛り上がってきたという感じだ」(リコーの新規事業開発本部SV事業開発センターVR事業室の野口智弘室長)。

 パソコンやスマートフォンが市場を拡大させた経緯でも明らかであるように、テクノロジーの世界では、ハードウエアとソフトウエアが市場勃興の両輪になる。どちらが欠けても市場は盛り上がらない。2016年はその両輪がようやく出そろい始めたことで、「VR(バーチャルリアリティ、仮想現実)元年」ともいわれる。

 リコーは、2013年10月に初代シータを発売して以降、2014年11月に2代目「THETA m15」、2015年10月に3代目「THETA S」と1年に1度のペースでリモデルを繰り返している。現時点での出荷台数は非公開だが、リコーが把握しているだけでもシータを使って撮影されたコンテンツのアップロード数は数百万以上に上るという。

 個人利用を目的としたシータだが、現在は企業への導入も進んでいる。例えばNHKは、一部の記者がシータを持って取材へ行き、撮影した360度コンテンツをNHK VRで提供している。現状2台を使い回しているが、今後数台の追加導入も検討しているという。

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