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 民主党を軸とする中道左派連合がイタリア国民から見限られた結果でもあった。ディ・マイオ党首率いる左派の五つ星運動とサルビニ党首が先導役の極右・同盟とは、難民受け入れなどでズレがあるが、EUの財政健全化路線に反旗をひるがえす点では一致している。バラマキ色の濃い公約を実施するため財政赤字のGDP比を前政権の0.8%から3倍の2.4%に拡大させた。

 EUは修正を求めたが、イタリアは受け入れず、このままではGDP比で0.5%の制裁金が科される可能性もあった。イタリアは年金受給開始年齢の引き下げや最低所得保障(ベーシック・インカム)など「基本政策」は変えないものの、規模の縮小などで財政赤字のGDP比を2.04%に引き下げる修正予算案を提示してやっと認められた。

 EUはイタリアの財政運営に監視を継続するが、ドイツとともにEUのリーダー役であるフランスが同3.2%の財政赤字を計上するとあっては、イタリアの予算修正をのまざるをえなかった。サルビニ党首は「フランスも公平に扱え」と皮肉たっぷりに注文をつけるありさまだ。

 ユーロ危機の遠因は独仏の財政赤字が3%基準を超えたにもかかわらず、お構いなしとなり、ユーロ圏全体の財政規律が緩んでしまったところにある。イタリアのポピュリスト連立政権は、今後ともEU運営に揺さぶりをかけてくるとみられるだけに、EUは財政規律維持に神経をとがらせざるをえない情勢だ。

トランプ流で変質する米国政治

 トランプ政権は「米国第一主義」など排外姿勢を強めている。大統領の側近だった極右ポピュリストのバノン氏が辞任したあとも政権の右傾化は著しい。トランプ暴走の歯止め役になってきたマティス国防長官まで事実上、解任された。

 11月の中間選挙で目立ったのは、左右両翼の台頭だった。共和党では「ミニ・トランプ」と呼ばれる右派が議席を獲得した。一方、民主党ではサンダース上院議員より左の「プログレシブ」(急進左派)の伸長が注目された。共和、民主両党とも穏健な中道勢力が低調で、ともに分裂の危機にさらされている。

 このままでは、2020年の米大統領選は、左右ポピュリストの対決になるとの観測もある。「中道政治」の後退で、共和、民主の2大政党制そのものが変質を迫られようとしている。

格差拡大で没落する中間層

 「格差拡大」はいまや世界共通の課題である。世界で最も豊かな8人が最貧の38億人に匹敵する資産を持つというのは異常である。1%の豊かな人と99%の貧しい人々とが対峙する格差の拡大は尋常ではない。しかも貧困層からはなかなか這い上がれない「格差の固定化」という病が進行している。

 深刻なのは、資本主義を働き手として消費者として支えてきた「中間層」の没落である。リーマン・ショック後の10年で主要7カ国の中間層は豊かになれなかった。この10年で中間層の所得は中国が2.3倍になったのに対して、米国では横ばいである。

 トランプ大統領が大統領選で、ラストベルト(錆びついた地帯)の貧しい白人労働者層を熱烈な支持層にしたのは、選挙戦術としては巧みだったといわざるをえない。

 米国に比べると格差がそう大きくないフランスでも、「黄色いベスト」運動の参加者が、何よりも反発したのは富裕層優遇だった。マクロン改革をそのまま実行すれば、上位1%富裕層は所得が6%増えるのに対して下位20%の貧困層では1%減るという試算もある。

 問題は格差拡大による中間層の没落が中道政治の衰退を招き、民主主義の危機につながることだ。同時にそれは資本主義の基盤を揺るがすことになる。

民主主義・資本主義の連鎖危機どう防ぐか

 こうした民主主義と資本主義の連鎖危機をどう防ぐか。米欧のポピュリスト勢力の台頭は、これまでの中道政治に対する「飽き」からきているだけで、ポピュリスト政治が失策を重ねれば中道政治が息を吹き返すことになるという楽観論もないわけではない。

 しかし、それは危機の進行を座視することになりかねない。格差拡大の要因はどこにあるかをつきとめることが肝心だ。それをグローバル化のせいにすれば、トランプ大統領のような自国第一主義・保護主義・排外主義につながりやすい。それはサプライチェーンなどグローバル経済化で定着した相互依存の仕組みを毀損し、世界経済を混乱させるだけだ。

 IT(情報技術)革命の急激な進展と金融資本主義の肥大化が格差を拡大させているのは事実だろう。とりわけ情報通信分野では「勝者総取り」が横行し、巨額の利益を背景に、先端分野の研究開発を独占しようとしている。個別の商品やサービスの市場を独占するにとどまらず、流通業という産業分類そのものを支配し始めているのは異常というしかない。本来、脇役であるべき金融資本主義が実物資本主義を大きく超えて肥大化するのも大きな問題だ。

 日米欧主要国にはGAFA(グーグル・アップル・フェイスブック・アマゾン)などの優越的地位の乱用を許さない独禁法の強化が求められる。それにとどまらずグローバル独禁法の制定を検討する段階だろう。

 デジタル課税、金融取引税など格差拡大を防ぐ新たな税制も必要になる。所得の再分配機能を生かすには、所得税の累進制強化、資産課税の強化、相続税の強化も求められる。コーポレートガバナンス(企業統治)では、経営首脳に対する報酬制限も盛り込むべきだろう。ゴーン前日産会長の逮捕は、天井知らずの役員報酬に対する重い教訓でもある。

 もちろん民主主義と資本主義は完全な制度ではない。しかし格差拡大によって、左右のポピュリズムの台頭を許すのはあまりに危険だ。だとすれば、格差是正のためにあらゆる手を尽くすしかない。「中の時代」を終わらせてはならない。