財政赤字拡大で「意図せざるドル高」に

 トランプ税制改革の大きな問題は、財政赤字拡大に目を閉ざしていることである。大型減税で連邦政府債務は10年間に1兆ドル積み上がる見通しだ。大型減税による経済活性化で税収増も見込めるが、10年間で4000億ドルにとどまる。

 すでに米国の政府債務残高は過去最大の20兆ドルに達している。そのうえに、トランプ政権はインフラ投資を拡大し国防費の増額をめざしている。一方で、民主党は社会保障費の増額を求めており、歳出増圧力が双方から強まっている。そのなかでの大型減税だけに、財政赤字問題が米国経済の重荷になる恐れが強まっている。

 財政赤字が累増することになれば、この面からも金利上昇圧力が強まる。それは「意図せざるドル高」をもたらす可能性がある。しかし、トランプ大統領にはドル高警戒の思考が強い。二国間主義による貿易赤字削減に傾斜するのは必至だ。とりわけ、日米間で自由貿易協定(FTA)の締結を強く迫る可能性がある。そのなかで、ドル高の流れをけん制するようになるだろう。トランプ大統領の「介入」が金融、外為市場をぎくしゃくさせ、通商摩擦を激化させる危険がある。

深まる亀裂、中間選挙に影響

 民主党が批判するように、トランプ税制改革が大企業と富裕層をさらに太らせ、格差拡大につながるのは事実だろう。民主党下院のペロシ院内総務は「最富裕層の上位1%を富ませるにすぎない」と批判する。

 2018年11月の中間選挙で、トランプ共和党政権は大型減税の効果を大いに宣伝したいところだ。賃上げを通じて中低所得層に行きわたる「トリクルダウン効果」に期待をよせる。しかし、民主党は税制改革の副作用と格差拡大で切り返すことになるだろう。

 共和党の絶対的な地盤であるアラバマ州の上院補欠選挙で、民主党が勝利したのは戦後最低の支持率しか得ていないトランプ政権にさらに逆風が強まっていることを物語る。税制改革で、トランプ政権の支持基盤である白人の中低所得層に恩恵が小さいことが判明すれば、中間選挙でも共和党の苦戦は避けられなくなるだろう。ウォール・ストリート・ジャーナルとNBCの調査(20日公表)によると、中間選挙で民主党支持は50%と共和党支持の39%を11ポイント上回っている。民主党優勢の傾向が強まっている。そうなれば、政権と議会のねじれでトランプ政権の運営はますます厳しさを増すことになる。

 最大の問題は、トランプ税制改革をめぐって「米国の分裂」が深まってしまったことだ。共和、民主の歩み寄りはみられず、それは社会の分断を深くした。米大統領選で鮮明になった亀裂はトランプ政権のもと、中間選挙に向けてさらに深刻化するだろう。

「米国の孤立」打開の切り札になるか

 苦境にあるトランプ政権においてこの税制改革は唯一の「成果」といっていい。問題はこの税制改革をてこに「米国の孤立」を打開できるかどうかである。最側近のクシュナー上級顧問にまで及ぶ「ロシア疑惑」に加えて、トランプ大統領のエルサレム首都宣言が国際社会の総反発を買っている。撤回を求める国連総会での議決に、援助停止などトランプ政権のあからさまな「脅し」にもかかわらず、大多数の国が賛成したのは「米国の孤立」を雄弁に物語っている。

 トランプ税制改革で米国経済が上向くことに世界はおおむね歓迎している。しかし、それが「米国第一主義」を反映していることには警戒的だ。法人税率の引き下げ競争に点火することになれば、世界中に財政難の連鎖を広げることになりかねない。とくに、先進国の中で最悪の財政危機にあり、法人税率が米国を上回ることになる日本への影響は大きい。

 トランプ税制改革が財政赤字拡大を通じて金融、外為市場を揺さぶり、世界経済の波乱の芽になるようなら、冷めた目が広がる可能性がある。

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