このトランプ税制改革は「先駆的」というより欧州やアジアの法人税制に対する遅れを取り戻す「キャッチアップ型」といえるだろう。遅れを取り戻し、さらに一歩前に出ようとして大胆になったといえるかもしれない。

 それ以上に、このトランプ税制改革には、「米国第一主義」が色濃く表れている。海外子会社からの配当課税を廃止するのは、米国内に投資を呼び込む作戦である。その一方で米国内から海外への資金移動は制限する。特許料などの海外への支払いによる損金算入が一定額以上になった場合、追加課税される。

 レーガン税制改革が冷戦の終結をにらんで「強い米国」をめざす世界戦略の一環だったのに対して、トランプ税制改革はあくまで「米国第一主義」に基づいている。その落差は大きいといわざるをえない。

景気過熱でパウエルFRBは苦境も

 トランプ税制改革が米国経済を刺激するのはたしかだろう。米連邦準備理事会(FRB)は利上げを決めた13日の会合で、2018年の経済成長率見通しを2.1%から2.5%に大幅に引き上げた。トランプ税制改革の効果を加味したからだ。大型減税は金融や小売りに効果が大きく、海外子会社の配当課税廃止で投資マネーが流入すれば、設備投資や研究開発投資もかさ上げされるだろう。それが賃上げにつながれば、国内消費の活性化を通じて米国経済の好循環が期待される。しかし、資産市場に滞留するだけなら、バブル発生につながる危険もある。

 FRBの手腕が試される場面だが、トランプ大統領に指名されたパウエル次期議長が「トランプ印」から脱して、金融政策の正常化を貫けるかどうかである。FRBはいまのところイエレン議長の正常化路線を引き継ぎ2018年には3度の利上げを考えているが、米景気が過熱しバブル懸念が強まれば、利上げのテンポを上げざるをえなくなる。しかし、パウエル氏を指名したトランプ大統領は「低金利が好きだ」とつねにFRBをけん制してきた。利上げテンポをあげる事態になれば、「介入」も辞さないだろう。パウエルFRBは苦境に立たされる恐れもある。

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