EU再生担うメルケル首相

 英米発の世界リスクが広がる中で、リベラリズムの「最後の砦」として期待されるのがドイツのメルケル首相だ。引退する可能性もあったが、英国のEU離脱決定を受けて、欧州内に極右勢力やポピュリズムが蔓延するなかで、来年秋の総選挙で4選をめざして立ち上がった。

 「ドイツのための選択肢」という保守勢力が進出するなかで、ドイツ国内でリベラリズムの足場を固めるのが狙いだが、それ以上に欧州全域に広がる極右勢力の台頭を食い止めようとするEUの盟主としての確固とした姿勢がみてとれる。とりわけ、ルペン氏の台頭が予想される来年春のフランスの大統領選挙を側面から支援したいという意識が働いている。

 EU内では「ドイツ独り勝ち」が批判されるが、メルケル首相がリーダーとして積極的な役割を演じないかぎり、EU再生はおぼつかない。メルケル首相が指導力を発揮すれば、世界にはびこる強権政治に対して、リベラリズムの防波堤を築くことになる。

アジア安定こそ安倍首相の責務

国際社会における日本の安倍晋三首相の役割は重要だ。トランプ氏の排外主義にくぎをさすのは、同盟国である日本の責任である。(写真:Lintao Zhang/Getty Images)
国際社会における日本の安倍晋三首相の役割は重要だ。トランプ氏の排外主義にくぎをさすのは、同盟国である日本の責任である。(写真:Lintao Zhang/Getty Images)

 英米発の世界リスクのなかで、メルケル独首相とともに期待されるのが日本の安倍晋三首相の役割である。日米同盟が日本外交の土台であることに変わりはない。だからこそトランプ次期大統領には多くの分野で物申す必要がある。

 とりわけトランプ政権が保護主義に傾斜することにはくぎをさすべきだ。TPPへの参加を呼び掛けるだけでなく、NAFTAの見直しには明確に反対することだ。グローバル経済は勝ち負けでなく、広範な相互依存によって築かれていることを粘り強く理解させることだ。

 トランプ政権下で米中関係がきしむなら、日本がその仲介役を買って出る必要もある。TPPと中国が参加する東アジア地域包括的経済連携(RCEP)を結合するのは、両方の協定作りに参加している日本の使命である。アジア太平洋全体が広範な自由貿易地帯になるなら、トランプ氏も孤立主義の不利益に気づくはずである。

 英米発の世界リスクのなかで、日本とEUとの経済連携協定の意義も高まっている。メガFTA(自由貿易協定)の時代が終わっていないことを実証しなければならない。

 安倍首相とメルケル首相の関係は必ずしも親密とはいえない。地球を俯瞰する外交をめざすなら、安倍首相は強権政治家たちよりもリベラリズム政治家たちとの連携を優先することだ。

 英米発の世界リスクのなかで、日本に求められる歴史的責務は重い。

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