格差拡大はグローバル化のせいか

 英国のEU離脱決定もトランプ米大統領の登場も、格差拡大が背景にあるのは事実だろう。それは先進国、新興国を問わず共通の現象である。しかし、格差拡大が冷戦終結後のグローバル化のせいだというのは本当か。米国のノーベル経済学者、ジョセフ・スティグリッツ教授やフランスの人口学者、エマニュエル・トッド氏ら論客が反グローバリズムを扇動しているが、そこには落とし穴がある。 

 グローバル化は新興国を台頭させ、世界経済全体を底上げした。格差拡大をもたらしたのは、グローバル化そのものというより、情報革命を軸とする産業構造の転換による面はなかったか。それは19世紀の英国発の産業革命以来、産業の進歩とともに繰り返されてきた。しかし「打ちこわし運動」は失敗し、産業革命は経済全体に浸透していくことになる。それは、いま起きている「第4次産業革命」でも同じだろう。

 格差拡大の最大の要因は、グローバル化でも産業構造転換でもなく、実物経済と金融経済の落差にあるとみるべきだろう。英米という金融センターを抱える先進国で、ともに予想外の展開があったのをみてもそれは明らかだ。

 リーマンショックで打撃を受けたはずの金融資本主義だが、再び息を吹き返している。しかも公的支援を受けた金融機関の首脳たちは何のお咎めも受けず、高所得を得つづけている。低成長の実物経済と肥大化する金融経済の落差にこそ、格差拡大の原因がある。

 英国のメイ首相は、ロンドン・シティーの勤務経験もあり、EU離脱にあたっては金融パスポートの維持などシティー重視の姿勢を貫くだろう。トランプ次期米大統領は財務長官など主要経済閣僚にウォール街出身者を起用、ウォール街重視を鮮明にしている。リーマンショックを受けた金融規制の緩和も打ち出している。

 英国のEU離脱やトランプ大統領の登場の背景にある格差は、皮肉にもますます拡大することになる。

中ロの台頭で混迷する世界

 英米発のリスクは、強権国家である中国、ロシアの台頭を許し、主役なき世界をさらに混迷させることになる。とりわけロシアはこの英米発の世界リスクで、漁夫の利を得ようとしている。プーチン政権は英国のEU離脱を歓迎する。ウクライナ危機やシリア危機で対立するEUが分裂すれば、その勢力をそぐことになると考えるからだ。

 それ以上に、トランプ米大統領の登場はロシアのプーチン政権にとって願ってもないことだろう。トランプ氏自身が米大統領選中にプーチン大統領を持ち上げてきた。プーチン政権はそのトランプ勝利のためにサイバー攻撃をかけたという疑惑が消えない。ヒラリー・クリントン氏が大統領になれば、プーチン政権に厳しい態度を取り続けてきたオバマ米政権の路線が継承されると考えたのだろう。米ロ関係が転換すれば、ウクライナや中東問題、それに欧州の行方にも大きな影響を及ぼすことになる。

 トランプ政権下で予想される米中関係のきしみも大きな懸念材料だ。中国は南シナ海などへの海洋進出の姿勢を一貫して強化している。これに対して、トランプ氏は台湾接近の姿勢をのぞかせ、中国の国是でもある「ひとつの中国」をけん制している。トランプ氏は中国を為替操作国と決めつけ、高率関税を課す姿勢を示している。硬軟両様だったオバマ政権から「ハードライナー」に転換する可能性がある。

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