もちろんEUにとって、英国は貴重な存在である。EUが環境、個人情報保護、競争政策などで「グローバル・ルール」を形成し、国際社会に発信できるのは、混合経済の色彩が残る欧州大陸と市場経済の英国との間で、うまく調和が取れてきたからだ。それはEUにとって英国のみえざる貢献だった。そうした「消極的貢献」を超えて「積極的貢献」に踏み出せるかどうかが問われる。

試金石はユーロ加盟

 カギを握るのは英国のユーロ加盟である。EU離脱か残留かが問われているとき、その先にあるユーロ加盟は議論にもならないというのが大方の見方だろう。しかし、将来の展望もないままEU残留を唱えるだけでは、いずれまたEU懐疑論が頭をもたげることになる。議論は再び振り出しに戻るだけだ。

 BREXITに不透明感が漂うなかで、ロンドン・シティーの国際金融センターの座は揺らいでいる。EU離脱により、英国で活動する金融機関はEU全域で一つの免許で営業できる「シングル・パスポート」が使えなくなる。

 金融機関は、欧州大陸などに拠点を移転する必要に迫られる。シティーのライバルとして、パリなどに比べて移転誘致にさほど積極的でないフランクフルトが欧州の国際金融センターとして浮上する可能性もある。

 英国はいまこそユーロ加盟を真剣に論議すべきだろう。もともと英国内ではユーロ加盟の是非を問う議論が盛んだった。イラク戦争への参加で英国民の不信を買っているが、ブレア元首相はユーロ創設のためのEU首脳会議を議長として取り仕切り、記者会見をフランス語でこなしたこともある親ユーロ派であった。リーマン・ショック打開の陰の主役であるブラウン元首相もユーロへの理解は深い。

 キャメロン首相のもとで財務相をつとめ、国民投票実施に反対して下野したオズボーン氏にはEU残留とユーロ加盟への期待がかかる。

ユーロ20年の転機

 ユーロは創設20年で国際通貨として定着してきたが、なお不安要素は残る。ギリシャ危機はようやく一山越えたが、左右のポピュリスト(大衆迎合主義者)連立政権のイタリアには銀行不安が消えない。

 ユーロ改革を掲げてきたマクロン仏大統領は、その大胆な改革路線が国民の反発を買い、連日の大規模な反政府デモの攻勢にさらされた。改革路線の修正を余儀なくされ、ユーロの財政基準の達成さえ危ぶまれている。

 マクロン大統領と二人三脚でEUを先導してきたメルケル独首相は最後の試練のときを迎えている。寛大な難民受け入れをめぐる国民の反発で、総選挙、州議会選挙と相次いで敗退し、18年務めたキリスト教民主同盟(CDU)党首の座を降りた。2021年まで独首相を務めるというが、求心力の低下は否めないだろう。

 マクロン大統領が提案した共通予算構想など、ユーロ改革はすぐには動き出せないだろう。といって、ユーロが米ドルに次ぐ国際通貨の座を失うわけではない。EU内にはユーロ・メンバーになって初めて一人前という見方が大勢で、ユーロへの求心力はなお強い。「たゆたえどもユーロは沈まず」なのである。

 英国がEUに残留する場合、そんなユーロとどう向き合うかが試されることになる。それは英国にとって、欧州の島国にとどまるかEUの金融大国として生き残るかの分岐点である。それはまた、ドル基軸の国際通貨体制を変質させる可能性を秘めている。

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