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 だれもBREXITの難局のなかで政権を担おうとはしないからだ。コービン党首はじめ労働党幹部の姿勢もあいまいだ。瀕死(ひんし)のメイ首相を座視しているだけである。そこにこそ英国政治の本当の危機がある。

合意なき離脱なら英国病に逆戻り

 このままでは、合意なき無秩序離脱は避けられなくなる。それは、英国経済にリーマン・ショック以上の深刻な打撃を与える。イングランド銀行は、合意なき無秩序離脱に追い込まれれば、英ポンドは25%、住宅価格は30%下落すると予測する。8%ものマイナス成長に転落する。スタグフレーション(インフレと不況の同時進行)に陥り、英国病に逆戻りすることになる。

 さらに、ロンドン・シティーが主役であるデリバティブ(金融派生商品)約6000兆円が不安定な状況に置かれるとイングランド銀行は警告する。複雑な金融取引が危機に見舞われれば、予期せぬ事態が発生しかねない。やむをえずEUも英国政府も合意なき無秩序離脱への備えにも着手しているが、そうした最悪のシナリオに陥らないようにすることこそ先決だろう。

離脱延期求め、国民投票再実施を

 ここまでくれば、英国は2019年3月29日の離脱期限の延期をEU側に求め、国民投票の再実施に踏み切るしかないだろう。メイ首相はあくまで2016年の国民投票の結果を尊重し、秩序ある離脱をめざす構えだが、すべての目算が狂ったのである。

 そもそも、2016年の国民投票も僅差の離脱選択だった。年齢別では大英帝国の栄光に酔い「昔は良かった」と思いがちな高齢層が離脱に傾いたが、EU市民としての在り方が身についている若年層は残留を求めた。地域別でもシティーを抱えるロンドンやスコットランド、それに北アイルランドは残留を支持した。

 BREXITをめぐる大混乱で、英国には「BREGRET」(離脱に対する後悔)が広がり「BRETURN」(EU回帰)の機運が高まっている。いま国民投票を再実施すれば、EU残留になるという世論調査がほとんどだ。おりからEUの最高裁にあたるEU司法裁判所が、英国は一方的に(EU加盟国の承認なしに)EU離脱を撤回できるという正式判断を下した。これも英国内のEU残留派を勢いづかせている。

「利益より貢献」に変われるか

 問題は、英国がEU観を変えられるかどうかである。言い換えれば、「利益より貢献」に転換できるかである。2度の世界大戦を経て創設されたEUは独仏の和解が原点である。独仏伊、ベルギー、オランダ、ルクセンブルクという原加盟国に比べて後発の英国には、アウトサイダー意識がどうしても消えない。独仏がEU運営に大きな責任を担っているのに対して、英国はEUから利益をどう得るかばかりを念頭に置いてきた。

 独仏や欧州委員会などEU主流からみると、英国は身勝手な大国に映る。だいいち、EUの基本である移動の自由のための「シェンゲン協定」にも単一通貨ユーロにも加盟していないから、どうしてもEU内では二流国扱いになる。それが自尊心の強い英国には我慢がならないのだろう。