不透明さが高める英国リスク

 問題は、英国のEUが自由貿易協定(FTA)を締結する場合、どんな内容になるか、離脱からの移行期間をどう設定するかなど、不透明な要素があまりに多いことだ。英国経済を支えてきた外資はこの点に敏感にならざるをえない。

 不透明感が強まれば、英国への投資を手控えるだけでなく、投資の引き上げも考えなければならなくなる。英国経済はEUと外資への依存度が高い。外資の対英投資は大半がEU市場に照準を合わせている。BREXIT交渉の不透明感はEU全域のサプライチェーンに混乱をもたらす。交渉が長引くようなら、日米の多国籍企業も英国脱出を真剣に検討せざるをえなくなるのである。

 外資に依存した英国経済にとって、外資流出は致命的である。ポンド安は輸出の促進効果や観光収入の増加というプラス面もあるが、ポンド危機になれば、話は別である。英国経済はスタグフレーション(不況とインフレの同時進行)に見舞われることになる。その行き着く先は、「英国病」の再現である。

シティーの地位は万全か

 英国にとって最大の問題はBREXITによって、国際金融センターとしてのロンドン・シティーの座が揺らがないかという点だろう。BREXITに備えた欧州大陸への移転はすでに動き出している。EU域内の銀行監督当局を束ねる欧州銀行監督機構(EBA)はロンドンからパリに移転することが決まった。ユーロの決済センターとしての機能もロンドンから移転することになる。

 そうしたなかで、金融機関は脱シティーの動きをみせている。米ゴールドマン・サックスはドイツのフランクフルトへの分散を検討している。ほかにパリ、アムステルダム、ダブリンなどがロンドン・シティーからの分散先として金融機関誘致を競っている。

 もちろんシティーには長い歴史と伝統がある。金融だけでなく情報、法務、会計など国際金融センターとしてのインフラは整備されている。そう簡単には国際金融センターとしての座を失うことはないと考えたいところだろう。

 しかし、英国の国内総生産(GDP)や雇用のかなりの部分を占めるシティーにBREXITによる悪影響が生じれば、それだけで英国経済全体への打撃は無視できなくなる。グローバルな市場間競争のなかでロンドン・シティーにはBREXITに対応して生き残りをかけた挑戦が求められる。長い歴史と伝統に安住することは許されなくなるだろう。

 東京都は最近、国際金融センターとしてのロンドン・シティーに学ぶことによって国際金融都市構想を打ち出しているが、BREXITのシティーへの影響を度外視しているとすれば、時代感覚を疑わざるをえない。

不毛の選択の「清算」こそ

 EUが難民問題など多くの難題を抱えているのは事実である。危機に見舞われた単一通貨、ユーロにも改革が必要だ。権限が集中したブリュッセルの官僚機構も改革が求められる。しかし、EUは2度の世界大戦を経て創設された「平和の組織」である。第3次世界大戦が起きなかったのは、EUの存在が大きい。国民投票という民主的手続きを踏んでいるとはいえ、そのEUから離脱するのはあまりに危険な選択である。

 そこには、「大英帝国」という大国のおごりが潜んでいる。しかし、その大英帝国を支えてきた英連邦の面影は「クリケット」にしか残っていない(参考記事 2017年4月11日配信「“サッカー”より“クリケット”を選んだ英国」)。戦後の長い「英国病」を脱することができたのは、サッチャー改革よりもEU加盟によるところが大きい。

 BREXITの交渉が難所にさしかかれば、「BREGRET」(EU離脱に対する後悔)から「BRETURN」(EUへの回帰)の議論も起きるだろう。メイ政権ではとてもBREXITの交渉を全うできないという見方がEU域内には多い。引き返す勇気をもつ指導者が登場するかどうかが試される。

 BREXITで巨額の「清算金」を支払うより、BREXITという不毛の選択そのものを「清算」することこそ、英国らしい賢明な選択に思えるのだが。