ウォール街偏重に変身

 大統領選挙中からの大きな変化は、トランプ氏がウォール街偏重ともいえる姿勢に転じていることだ。民主党のヒラリー・クリントン候補をウォール街寄りだと批判していたのとは様変わりの大きな変身である。財務長官にはゴールドマン・サックスのパートナーをつとめたスティーブン・ムニューチン氏を、商務長官には投資家で「再建王」の異名もあるウィルバー・ロス氏を起用することにしたのをみても、それは明らかだ。

 さらに、リーマンショックを受けて導入された金融規制を緩和する方針を鮮明にしている。ウォール街にはこの金融規制には反発が強かっただけに、方針転換を歓迎し、金融株の上昇につながっている。しかに、期待先行の「トランプ・ラリー」は金融バブルとその後に待ち受ける金融危機の危険をはらんでいる。

 とくに、大規模なインフラ投資や大型減税で、財政赤字の拡大が予想されるだけに、財政危機との連鎖は大きな懸念材料だ。

FRBの独立性脅かす恐れ

 こうしたなかで、重要なのはFRB(米連邦準備理事会)のかじ取りだが、トランプ氏はイエレンFRB議長について「再任しない」と明言している。イエレン議長がトランプ氏の大統領当選後も金融規制の緩和に反対すると鮮明にしているだけに、両者の溝はかなり深い。

 FRBは今月、再利上げするとみられているが、さらに来年も慎重に出口戦略を続ける構えである。しかし、トランプ氏は不動産王の経験から、金融緩和に傾斜している。あつれきが生じる危険がある。

 問題は、米国に根付いてきたFRBの独立性が脅かされかねないことだ。それは米国経済そのものの信認、そして基軸通貨ドルの信認にも響くだろう。

保護主義と金融肥大化で格差拡大

 やや皮肉だが、トランプ流のポピュリズム政策は格差の是正どころか格差の拡大を招くだろう。世界経済の潮流にそぐわぬNAFTA見直しなど反グローバル化の動きは、米国の成長力を削ぐことになる。TPPから離脱すれば、アジア太平洋地域からの成長の果実を取り込めなくなる。それはトランプ氏の集票基盤である白人中間層の雇用に響くことになる。

 一方で、金融資本主義の肥大化に手を貸すことになれば、格差をさらに拡大する。所得格差が拡大したのは、グローバリズムのせいではなく、実体経済と金融経済の落差が広がったためである。いわば、ウォール・ストリートとメイン・ストリートの落差である。金融資本主義を刺激して、ウォール街をさらに活性化し、保護主義でメイン・ストリートを封鎖することになれば、格差はさらに拡大することになる。

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