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 もちろん、中国の国家資本主義は矛盾だらけである。発展途上段階なら国家資本主義で国民の生活水準を引き上げるのは中国流の「人権」かもしれない。しかし、物質的な「豊かさ」を超えて人々が「人権」を求め始めるとき、共産党一党独裁による国家資本主義の矛盾が噴出するだろう。しかも、そのとき中国経済は大きな成長屈折に直面しているはずだ。

 相互依存を軸に展開する世界経済にあって、第2の経済大国が不透明な国家主導の経済運営に凝り固まっていては、公正な競争は保てなくなる。

 とりわけ習近平国家主席が主導する「中国製造2025」は国家資本主義によってハイテク覇権をめざす計画だけに、米国を刺激するのは当然だろう。相手国の補助金で自国産業が打撃を受ける場合、相殺関税を課せるのは世界貿易機関(WTO)でも認められたルールだ。

 中国版「国家資本主義」には、本来、日米欧先進国が共同歩調であたるのが筋だが、肝心のトランプ大統領が世界を相手に「米国第一主義」という名の保護主義を掲げているだけに、やっかいである。中国版「国家資本主義」は矛盾だらけだが、一方で「米国第一主義」は世界の大迷惑だ。

 ともに共感を得られない国家資本主義とトランプ主義が対峙するのは、世界にとって大きな不幸である。

冷戦より深刻な「新冷戦」

 問題は、米ソ冷戦よりも米中「新冷戦」の方が根が深いことだ。米ソ冷戦は経済ではなく軍事に限定されてきた。もちろん軍事的緊張が経済に影響を及ぼすことはあったが、少なくとも米ソ経済戦争ではなかった。ところが米中「新冷戦」は、経済と安全保障が直接からむだけに、影響度合いはずっと大きい。米中はすでに貿易戦争を超えたハイテクの覇権争いに点火している。ハイテク分野は安全保障の領域にからむだけに、覇権争いはし烈になる。

 さらに「海洋強国」をめざす習近平政権は、南シナ海、東シナ海などに海洋進出を強化し、空母建設を積極化している。中国が経済、軍事両面で、覇権国家である米国に挑戦しようとするなら、事態は深刻化しかねない。

狭量な「インド太平洋構想」

 こうした米中対立を打開するうえで、カギを握るのは日本である。安倍晋三首相はG20首脳会議の機会に、トランプ大統領、習近平国家主席と個別に会談し「米中関係安定が世界に重要だ」と自制を求めた。米中打開の仲介役に立ったともいえるが、それだけでは不十分だ。

 G20の場では、初めて日米印の首脳会談が開かれた。「自由で開かれたインド太平洋構想」を実践するのが狙いである。安倍構想にトランプ大統領が飛びつき、インドのモディ首相も乗ってきた。これは明らかに、中国主導の「一帯一路」構想に対抗して、中国包囲網を築こうという戦略だ。中国に刺激が強すぎるのを警戒して当初の「インド太平洋戦略」を「インド太平洋構想」と言い換えたが、狭量であることに変わりはない。

 たしかに、「一帯一路」構想がそれこそ「中国第一主義」から生まれたのは間違いない。習近平国家主席がめざす「中華民族の再興」の色彩は濃い。対象国を「債務漬け」にするといったペンス米副大統領らの対中批判が当たっている面はあるだろう。

 だからといって、それに対抗して中国封じ込め戦略を打ち出そうというのは「価値観の共有」の範囲を超えている。だいいち、トランプ流保護主義に価値観を共有できるはずはない。なにより中国包囲網は、グローバル経済の核にある相互依存の構造を無視する現実離れの発想なのである。

TPPとRCEPの統合を

 いま日本に求められるのは、アジア太平洋を「対立」から「融合」に導くための大戦略である。習近平国家主席との会談で、安倍首相がRCEPの早期妥結を確認した意味は大きい。

 年内合意は実現できなかったが、RCEPは極めて重要な枠組みだ。東南アジア諸国連合(ASEAN)10カ国に、日中韓、インド、オーストラリア、ニュージーランドを加えた16カ国で構成する。もともと日本の提案である。このメガFTA(自由貿易協定)構想は、その経済規模、人口の基盤も成長力も、11カ国のTPPよりずっと大きい。

 日本主導のTPP11と日本提案のRCEPを統合するのは、まさに日本の責任である。RCEPはTPPに比べて自由化度が低いのが難点とされるが、今後の交渉しだいで自由化度の引き上げも可能だろう。

 この2つのメガFTAの要の座にある日本は、統合によって「スーパーFTA」を導ける立場にある。アジア太平洋に「スーパーFTA」が構築されることになれば、トランプ政権といえども、座視できないはずだ。米国を呼び込む吸引力は大きい。それは米中対立を防ぎ、アジア太平洋に米中融和をもたらす大きな機会になるはずだ。

ADBとAIIBの合併を

 通商分野の融合がTPPとRCEPの統合なら、国際金融分野の融合はADBとAIIBの合併である。

 中国主導のAIIB創設には、欧州勢、アジア勢をはじめ世界各国が参加しているが、肝心の日米は参加を見合わせている。総裁は中国人にし、本部は北京に置くなど中国主導色が強過ぎることを警戒しているためだ。しかし日米の不参加もあり、AIIBの運営はあまりうまくいっていない。

 日本がAIIBに警戒的なのは、歴代総裁の座を維持しているADBとの重複感が強いためでもある。そのなかでも、ADBは融資などでAIIBとの協力関係を続けてきている。ADBとAIIBが合併すれば、資金調達能力は高まり、アジア太平洋のインフラ投資、環境開発などの融資を拡大できるはずだ。それはアジア太平洋の金融協力の土台になる。

地球温暖化防止で米中協力促せ

(写真=ロイター/アフロ)

 超大国である米中が協力しなければならない分野は多い。地球温暖化の危機に、貿易戦争などしている場合ではない。2大経済大国である米中は、温暖化ガスの2大排出国でもある。トランプ政権が地球温暖化防止のためのパリ協定から離脱したのは大問題だが、中国の温暖化ガス排出防止の取り組みも不十分だ。日本は欧州連合(EU)とともに、地球温暖化防止での米中協力を促さなければならない。

 ポーランドで始まった国連の気候変動交渉「COP24」は、パリ協定のルール作りに乗り出している。地球温暖化は「不都合な真実」(ゴア米元副大統領)どころか「今そこにある危機」になっている。パリ協定は産業革命前に比べて平均気温の上昇を1.5度以下に留めるのが目標だが、それを達成するには2030年の温暖化ガスの削減目標を5倍にする必要があるという。いまや異常気象は常態化し、米カリフォルニアの山火事や中国・北京の大気汚染など、危機が地球を覆っている。

 地球温暖化が進めば、経済活動に響くだけでなく、環境難民など国際政治の不安要因にもなる。米中はハイテク競争を環境技術開発の協力にシフトするときだ。日本も「環境先進国」として、米中への環境技術支援ができるはずである。

相互依存深め、危機打開へ

 日本は来年開催されるG20の議長国である。米中「新冷戦」を防ぎ、アジア太平洋を融合するうえで日本の責任は重大である。対立をあおるのではなく、相互依存を深めることでしか危機は打開できない。