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G20首脳会議の米中会談で、ドナルド・トランプ米大統領と向かい合う習近平中国国家主席(写真=AFP/アフロ)

 米中首脳会談でエスカレートする一方だった米中貿易戦争はとりあえず、「一時休戦」になった。しかし、米中がハイテク覇権争いから、安全保障がからむ「新冷戦」に踏み込む危険が完全に消えたわけではない。世界を揺るがす米中対立を防ぐにあたって、最大の同盟国・米国と最大の隣国・中国のはざまに立つ日本の役割は決定的に重要である。「インド太平洋構想」という名の中国封じ込め戦略は、あまりに狭量だ。日本は、環太平洋経済連携協定(TPP)と東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の統合やアジア開発銀行(ADB)とアジアインフラ投資銀行(AIIB)の合体など「大結合」を軸に、アジア太平洋の融合こそ主導すべきである。

「共倒れ」に危機感

 トランプ米大統領と習近平中国国家主席がアルゼンチンのブエノスアイレスで開いた20カ国・地域(G20)首脳会議の場で、「米中貿易休戦」で歩み寄ったのは、このまま貿易戦争がエスカレートすれば、米中が「共倒れ」になる危険を察知したからだろう。

 中国経済の減速が鮮明になってきただけでなく、トランプ大統領が「貿易戦争に勝てる」と言ってきた米国経済にも影響が見え始めた。それだけ米中間の経済における相互依存が深いことを示している。この米中貿易戦争は先進国、新興国、途上国を問わず世界経済全体を巻き込むところだった。

 米中合意は、しかし極めて暫定的だ。米国は中国に対する追加関税を90日間猶予する。この間に、米中は知的財産権の保護や技術移転の強要、サイバー攻撃など5分野について協議する。この間に合意できなければ、米国は中国からの輸入2000億ドル(約23兆円)分に対して、10%の関税を25%に引き上げる。

 同時に、中国は、対米貿易黒字削減のため農産品やエネルギー、工業製品の購入を拡大する。その一方で、中国の産業政策の「核心」に当たるハイテク分野の見直しや産業補助金については、協議の対象から外している。

国家資本主義vsトランプ主義

 G20首脳会議では、リーマン・ショック後の会議創設以来初めて、首脳宣言で「保護主義との闘い」を削除した。さきのアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議では米中対立から首脳宣言そのものが採択されなかったばかりだ。これ以上、世界に亀裂が広がるのだけは防ごうとしたのだろう。しかし、決裂回避のために「保護主義との闘い」を放棄したのは、大きな汚点として歴史に残る。

 そこには「米国第一主義」を掲げるトランプ大統領に、誰も抗しきれなくなった世界が浮かび上がる。超大国であり最先進国であるはずの米国が、保護主義に傾斜することほど危険はない。

 しかもトランプ政権は強権化が目立つ。司法への介入、言論への介入、中央銀行である米連邦準備理事会(FRB)への介入、そして個別企業への介入など、自由な民主国家の基盤を揺るがしている。そのトランプ主義を国際社会でも実践しているのである。

 国家主席の任期延長など強権化を進める習近平主席でさえ「各国との幅広い協議を堅持すべきで、ワンマンはいけない」というほどだ。