マクロン仏大統領が提案するユーロ共通予算、ユーロ財務省などユーロ改革での食い違いは鮮明だった。とくに自民党はマクロン流の財政統合に強く反発した。EU統合を推し進める立場の緑の党との差はぬぐいがたいものがあった。しびれを切らした自民党のリントナー党首が「誤った統治をするくらいなら統治しない方がよい」と連立協議からの離脱を表明して「ジャマイカ連立」協議は決裂した。メルケル首相も科学者らしく「共通の解」はみつけられなかったと決裂を認めざるをえなかった。
避けられぬドイツの政治空白
連立協議の決裂を受けて、ドイツの政治は連立の再協議か少数与党か再選挙かの選択を迫られることになるが、どのシナリオになるにしろ政治空白の長期化は避けられない。
社民党出身のシュタインマイヤー大統領は、各党に連立協議を呼び掛けたが、連立の再協議は極めてむずかしいだろう。まず、総選挙で台頭した極右「ドイツのための選択肢」(AfD)と旧東独共産党の流れをくむ左派党は連立相手にはなりえない。これまでの大連立の結果、支持を大幅に失った社民党のシュルツ党首は改めて「大連立はありえない」と強調している。いったん決裂したジャマイカ連立協議を再びテーブルにのせるのも不可能だろう。
そこで、少数与党による政権運営が浮上することになる。それは安定した戦後のドイツ政治では経験したことのない道である。重要政策の決定は、野党の手に握られ、政権の基盤は大幅に弱体化することになる。
メルケル首相自身、「少数与党になるくらいなら、再選挙を」と述べているが、再選挙しても、メルケル陣営が勝利する保証はない。それどころか極右勢力のさらなる伸長に手を貸す結果にもなりかねない。だいいち、再選挙という事態になれば、メルケル首相に変わる「選挙の顔」を求める政治的動きが表面化し、突如、メルケル時代に終止符が打たれる恐れもある。
メルケル首相はまさに「袋小路」に追い込まれたわけだが、数々の修羅場を経験してきた「政治巧者」が危機打開への切り札を打ち出せるかが試される。
独仏主導のEU再生に影
ドイツのジャマイカ連立協議の決裂に、真っ先に懸念を表明したのは、マクロン仏大統領だった。EUの若き指導者は、外交を中心に存在感を発揮しているが、財政赤字削減や労働市場改革など痛みを伴う改革で内政では支持を弱めつつある。こうした改革を進めるためにも、メルケル首相との独仏連携は重要になる。それだけに、ドイツ政治の混迷はマクロン大統領にとっても大きな痛手である。
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