「米国外交の継続性」はどこに行ったか
超大国である米国の最大の特徴は、「外交の継続性」にあったはずだ。共和党政権から民主党政権に移ろうと、民主党政権から共和党政権に変わろうと、そこに外交の継続性・一貫性というものがあった。だからこそ、超大国・米国の信認があった。
ところが、トランプ政権はそうした米国のよき伝統を根底から捨てたのである。オバマ前大統領の功績にことごとく冷水を浴びせただけではない。北大西洋条約機構(NATO)を批判して、米欧同盟を揺るがし、国際連合を軽視して国際主義に背を向けた。
トランプ大統領のディール外交には、いったん合意しても、いつ「ちゃぶ台返し」があるかもしれないという不安がつきまとう。これでは、「米国の信認」は失われるばかりである。
2大政党制の矛盾露呈
中国の共産党1党独裁による「国家資本主義」には大きな矛盾がある。その一方で、米国の2大政党制にも矛盾が潜んでいる。米中間選挙で、その矛盾が露呈された。
同じ共和党でも、トランプ大統領にすりより、選挙支援を受けた勢力とトランプ批判を続けた故マケイン議員ら穏健派との間には大きな溝があった。トランプ大統領の事実上の敗北でその溝はさらに深まる可能性がある。
民主党の「分裂」も大きい。オバマ前大統領やヒラリー・クリントン前大統領候補ら主流派と左派のサンダース上院議員の落差は大きい。「民主社会主義者」と名乗って下院選で勝った史上最年少のオカシオコルテス氏ら「プログレッシブ」(急進左派)との落差はさらに広がるだろう。背景にあるのは、世界共通の課題である格差の拡大である。
価値観が多様になるなかで、2大政党制は果たしていつまで米国民の意思を反映できるか。「米国の分断」で、米国政治は重い課題を抱え込んだ。
「ねじれ議会」でも「米国第一」変わらず
米中間選挙の結果を受けて、トランプ主義は変わるのだろうか。下院で民主党が多数派を奪還したことで、まずトランプ陣営のロシア疑惑や税申告問題などが調査の対象になるのは必至である。民主党が弾劾手続きを開始する可能性も消えない。中間選挙の翌日、トランプ大統領は突然、セッションズ司法長官を解任したのも危機感の表れだろう。
トランプ大統領は「ねじれ議会」に対応して民主党の協力を呼び掛けているが、「米国第一主義」などこれまでの路線は変更しない構えである。
予算権限を握る下院では、医療保険制度(オバマケア)の改廃やメキシコ国境の壁建設などは通りにくくなる。トランプ大統領が選挙目当てで打ち出した中間層に対する追加減税などは構想倒れに終わるだろう。その代わりに、外交や通商政策では、これまでのトランプ流を押し通す恐れがある。
大統領令が頻発される可能性もある。とくに下院で多数を占める民主党はもともと管理貿易など保護主義容認の傾向もあるだけに、情勢次第で民主党の同調も考えられる。米中摩擦では、民主党も中国の人権問題をからめて強硬姿勢を取る可能性は否定できない。
トランプとどう付き合うか
米中間選挙を受けたトランプ政権とどう付き合うかは、今後の日本の国際社会での位置付けを決める。安倍晋三首相との蜜月関係に頼りすぎるのは危険である。
来年始まる物品貿易協定(TAG)では、トランプ政権は自動車に25%の高関税をかけることをちらつかせながら、米墨加協定並みに、「管理貿易」と「為替条項」を得ようとするだろう。対米投資を呼び込む戦略である。これまでの日米通商交渉の決着点だった自主規制はすでに織り込まれているようにみえる。
こうした2国間主義は日本にとって最も避けたいところだ。といって離脱したTPPに復帰するよう米国に求め続けるのは、あまりに芸がない。日本がめざすべきは、このTPPと東アジア地域包括的経済連携(RCEP)を統合することだ。日本はこの2つのメガFTA(自由貿易協定)にともに参加する唯一の先進主要国であり、扇の要の役割を果たせる。
RCEPは東南アジア諸国連合(ASEAN)10カ国に、日中韓、インド、オーストラリア、ニュージーランドの16カ国で構成する最大のメガFTAである。TPPよりは自由化度は低いが、成長基盤はずっと広範だ。今後の交渉次第で、自由化度を引き上げるのは可能である。TPPとRCEPが結合し、アジア太平洋に「スーパーFTA」ができれば、米国も参加を考えざるをえなくなるだろう。
それは、世界経済の最大の問題である米中「経済冷戦」を防ぐ道につながるはずだ。
2020年は左右ポピュリスト対決か
2020年大統領選に、トランプ大統領は出馬意欲を捨てていないが、米中間選挙結果をみるかぎり、そこには不透明感が漂う。はっきりしているのは、これまでのような共和・民主の中道政治の対決にはならず、左右両極の対決になる可能性が強いという点だ。
中道派の退潮はいまや世界の潮流である。ドイツなど欧州政治ではすでに深刻な問題になっている。2020年の左右対決がポピュリズム(大衆迎合主義)どうしの対決になるなら、超大国・米国の信認は地に落ちることになりかねない。
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