なぜパウエル氏が選ばれたか
そんなグリーンスパン氏と共通項が多いパウエル氏はなぜFRB次期議長に選ばれたか。パウエル氏は金融政策では「ハト派」とみなされているが、5年間のFRB理事の時代、パウエル氏はつねに議長を支える「主流派」だった。政策決定の場である連邦公開市場委員会(FOMC)で反対票を投じたことは1度もない。「ハト派」でも「タカ派」でもない「フクロウ派」という指摘もある。
ベン・バーナンキ議長の時代、大規模な量的緩和が長期化しすぎることに警告を発している。それがバーナンキ・ショックといわれる量的緩和縮小の前触れだった可能性がある。
イエレン議長による「緩やかな出口戦略」にも全面協力してきている。FRBの次期議長はイエレン議長続投の可能性があり、ジョン・テイラー・スタンフォード大教授も候補になったが、最終的にパウエル氏が選ばれたのは、その穏健路線が信認されたものとみられる。
とくに、トランプ大統領が求める「低金利政策」と金融規制の緩和にともに理解を示していることがFRB議長の座につながった。マクロ経済指標から適正金利水準を決めるテイラー・ルールを提唱したテイラー教授はタカ派と目され、「低金利政策」路線からははずれる。一方で、イエレン議長はトランプ大統領が主張している金融規制緩和に対して、辞任したフィッシャー副議長とともに公然と反対を表明してきた。消去法でパウエル氏が浮上したことになる。
「トランプ印」FRBの危険
問題は、トランプ大統領が「トランプ印」にこだわったことだ。オバマ前大統領に指名されたイエレン議長は交代せざるをえなくなる。FRBはフィッシャー氏がつとめた金融政策担当の副議長はじめ4人の理事が空席になる。ここに、「トランプ印」が送り込まれれば、中央銀行としてのFRBの独立性、中立性が揺らぐことになる。これは通貨覇権国家の中央銀行として大きな問題である。
創設当初、FRBのワシントンでの位置づけは決して高くなかった。歴史家のジョン・ガルブレイス教授によると、FRBが創設された1913年当時、ワシントンでの序列を聞かれたウッドロウ・ウィルソン大統領は、「消防庁の次ぐらい」と答えたといわれる。そのFRBはいま「世界の中央銀行」として君臨し、FRB議長の座は米大統領に次ぐ「ナンバー2」と目されている。
そんなFRBが「トランプ印」となれば、トランプ大統領の司法への口出しで三権分立が揺らいでいるのと合わせて、米国の民主主義そのものの危機につながりかねない。
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