イタリアにはもともと親EU派が多い。ブリュッセルのシンクタンク「ブリューゲル」所長を務め、首相にもなったモンティ氏らだ。モンティ氏は首相時代、「財政再建と成長」の両立を掲げ、メルケル独首相の指南役になったほどである。ディーニ元首相のように「財政をめぐってイタリアの孤立化を懸念する」(日本経済新聞のインタビュー)声もある。

 EU懐疑派のサルビーニ副首相も、EUやユーロからの離脱は念頭にはない。BREXITの難航ぶりをみれば、イタリア国民の支持を得られないことはわかっている。「反EU」をちらつかせながら、財政拡大で揺さぶりをかけるのが狙いだろう。

「ブラジルのトランプ」

 ブラジル大統領に選ばれた軍人出身のボルソナロ氏は軍事独裁政権を賞賛してきた。女性や性的少数者への差別などを売りにして頭角を現した極右ポピュリストだ。「ブラジルは全てを上回る」と自国第一主義を掲げて「ブラジルのトランプ」と呼ばれる。ツィッターを多用することもトランプ大統領そっくりだ。その勝利に、本家のトランプ大統領が祝意の電話を入れたほどだ。

 国営企業の民営化や財政再建を掲げて、経済界や市場の期待を集めたが、低所得者への大幅減税や補助金拡大などバラマキ政策もうたっており、政策の整合性が問われている。

 経済難から脱し切れていないとはいえ、中南米最大の経済大国で「BRICS」の一角にあるブラジルに、極右ポピュリスト政権が誕生した衝撃は大きい。

蔓延するトランプ主義

 世界の政治は、いま強権政治家とポピュリストに牛耳られている。トランプ大統領、習近平国家主席、プーチン大統領のほかにも、トルコのエルドアン大統領、フィリピンのドゥテルテ大統領がいる。イタリアでポピュリスト連立を組むサルビーニ、ディ・マイオ両副首相もそうだ。BREXITを扇動した英国のジョンソン前外相も入れていい。その戦列に、ブラジルのボルソナロ次期大統領が加わることになる。

 そのなかで既存の中道政党は退潮を余儀なくされている。米国の共和党もトランプ大統領に乗っ取られたようなものだ。米中間選挙を前に、トランプ人気にすりよる光景を亡くなったマケイン上院議員はどうみていたか。メルケル首相の政治的危機もトランプ主義の蔓延と中道政党の退潮のなかで起きた。

「敗れざる者」への期待

 危険なのは、こうした現実を避けられないものとして受け入れ、「ポピュリスト慣れ」「トランプ慣れ」に陥ってしまうことだ。それは世界中を大きなリスクにさらすことになりかねない。

 たしかに党首の座を降りるメルケル首相の政権基盤はもろく、レームダックの危険は高まるが、それでもなおメルケル首相の粘り腰に期待するしかない。政治危機を覚悟のうえでの「総総分離」は、最後にみせる高度な政治戦術とみることもできる。

 メルケル首相を支えるマクロン仏大統領はじめEU内の勢力はなお健在だ。EUは地球環境問題や個人情報保護などグローバルなルールメーカーとして存在感を高めている。世界に危機が広がるなかで、メルケル首相はトランプ大統領に対して「敗れざる者」であり続けることが期待される。