しかし、昨年の総選挙での敗北に伴う混迷に加えて、州議会選挙での大敗でメルケル首相の求心力が大きく低下したことは間違いない。12月のCDU党首選では、メルケル路線を継続するクランプカレンバウアーCDU幹事長と、メルケル首相の難民政策を批判するなど反メルケル路線を鮮明にしているシュパーン保健相、それに「再出発をめざす」というメルツ元院内総務の争いになる。

 右派のシュパーン氏が党首に選ばれれば、連立を組むドイツ社会民主党(SDP)との大連立が再び解消の危機にさらされ、メルケル首相の影響力はさらに低下する可能性がある。

 「メルケル時代の終わりの始まり」はEUを揺さぶることになる。とりわけ、メルケル首相との「MMコンビ」で独仏主導によってEUを運営してきた若きマクロン大統領には、大きな衝撃である。不人気覚悟のフランス国内改革で支持率は低迷しているところである。ユーロ圏共通予算構想などマクロン大統領が提起しているユーロ改革が宙に浮く恐れもある。

大詰めのBREXITにも打撃

 英国のEU離脱(BREXIT)交渉が来年3月29日の離脱期限を前にもめ続け、「合意なき離脱」の危険性が高まっているのは、「EUの盟主」であるメルケル首相の求心力が弱まっていることと無縁ではない。CDU党首の退任で求心力の低下が決定的になれば、BREXITへの影響は深刻化する。

 メルケル首相はかねて英国のメイ首相に対して「良いとこ取りは許さない」と強い態度を表明してきているが、独英間の経済の結びつきの深さから、最終局面では、EUの盟主としてまとめ役に回るはずだという秘かな期待があった。そのメルケル首相の指導力低下で強力な調整役不在のままBREXITはますます混迷するだろう。ありえないと考えられてきた「合意なき離脱」が現実味を帯びてきかねない。

イタリアのEUへの挑戦

 そうでなくても、EUは難題を抱えている。英国と違って、EUの創設メンバーでユーロ加盟国でもあるイタリアが財政拡大でEUに挑戦状を突きつけている。「5つ星運動」と「同盟」という左右のポピュリスト政党の連立政権が財政拡大をめぐってEUと対決姿勢を強めている。

 EUの欧州委員会はイタリアが提出した2019年予算案を差し戻し、3週間以内に再提出するよう求めた。これに対して、イタリアは予算案の修正に応じないとEUの要求をはねつけた。極右ポピュリストのサルビーニ副首相(同盟党首)は「1ミリも後に引かない」と強硬だ。当然、EUは制裁発動も辞さない構えで、にらみあいが続いている。

 イタリアの19年予算案は、低所得層の最低保障や大型減税など選挙で公約したバラマキ策を盛り込んでいる。財政赤字の国内総生産(GDP)比は2・4%、歳出は2・7%増になっている。財政拡大で成長を刺激するのが狙いだ。EUルールでは歳出の伸びは0・1%までである。財政赤字が膨らめば、ギリシャに次いで悪い長期公的債務残高のGDP比(130%)がさらに拡大することが懸念される。

 イタリアの長期金利は高止まりしており、イタリア国債の格下げも考えられる。そうなれば、イタリア国債を抱える欧州の銀行に不安を招く。財政悪化と金融不安の「危険なタンゴ」が再び始まりかねない。

 サルビーニ副首相はEUを「欧州の敵」と公言しており、欧州議会を中心に「EU懐疑派」勢力を拡大する構えである。