国交回復前の日中関係を支えたひとりに、日中覚書貿易事務所の岡崎嘉平太代表がいた。戦中、日銀マンとして中国に駐在した経験から戦後は日中関係の正常化に尽力していた。それは右翼の攻撃対象にされた。夜回り取材で岡崎氏の自宅を訪問したときのことだ。岡崎氏の脇には大きなシェパードが座り、こちらをみつめていた。右翼への警戒を怠らず、命がけで日中関係の打開をめざしていたのである。

 日中関係はニクソン米大統領訪中の後を受けた田中角栄首相の訪中で正常化に向かうが、周恩来首相が「井戸を掘った人」と讃えたのは、岡崎氏だった。

 戦後の日中関係が疎遠だったのは、中国に共産党政権が誕生し、冷戦下で西側の拠点になった日本との対立関係が生まれたためともいえる。しかし、第2次大戦後、欧州ではフランスの実業家、ジャン・モネの仲介で独仏和解が実現し、それが欧州統合に結実している。欧州連合(EU)はいま様々な難題を抱えているが、独仏和解を軸に平和が保たれている。

 この独仏和解に日中はなぜ学べなかったのか。第2次大戦のような悲惨を防ぐために、政治体制の違いを超えた平和構築は可能だったはずだ。日中関係の「井戸を掘った人」岡崎氏は日中関係の長い冬の時代を嘆いていた。

米国巻き込む日中連携の大戦略を

 日本は米中両大国の間でどううまく泳ぎ切るか、と考える政策当局者もいる。これは大きな間違いだ。いま日本に求められるのは、アジア太平洋の繁栄と安定のために、扇の要(かなめ)として大戦略を打ち出すことである。

 第1に、TPPとRCEPの結合である。11カ国によるTPP11はたしかに先進的な自由貿易圏だが、その範囲は狭い。これに対して、東南アジア諸国連合(ASEAN)10カ国に日中韓、そしてインド、オーストラリア、ニュージーランドを加えたRCEPにはアジア太平洋の主要国がほぼすべて含まれる。問題は自由化度合がTPPに比べて低いことだが、交渉次第で自由化率を上げられる。TPPとRCEPでともに核にあるのは日本である。TPPとRCEPを結合して、米国を呼び戻すのは日中の共同戦略になる。それは、米中貿易戦争を打開する道でもあるだろう。

 第2に、中国主導で成立されたアジアインフラ投資銀行(AIIB)とアジア開発銀行の統合である。AIIBにはアジア各国や欧州各国などが参加しているが、日米はあえて参加していない。中国は日米にも参加を求めているが、日米は慎重だ。このためAIIBの運営は必ずしも軌道に乗っていない。日本人が歴代総裁をつとめるアジア開発銀行はインフラ投資などをめぐってAIIBと協力しているが、両行が統合すれば、旺盛な需要に対して資金不足にあるアジアのインフラ投資が進む可能性がある。

 日中首脳会談による日中連携は、冬の時代が長かった戦後の日中関係からみると一歩前進ではある。しかし、それはトランプ旋風に対応した防御的な連携にすぎない。日中両国に求められるのは、世界の成長センターであるアジア太平洋を結びつけるより広範な連携である。この本格的な多国間主義こそ、トランプ流の2国間主義を突き崩すことになるはずだ。