「オリエンタル」といっても、日本や中国をさすのではない。イスラム文明をさしている。イベリア半島を中心に欧州では、キリスト教文明とイスラム文明の対立、衝突が繰り返されてきたが、そこで「融合」を通じて独特の文化を生み出してきた。欧州の人々にとってイスラム文明は敬意の対象だったのである。
イスラム建築の最高峰とされるアルハンブラ宮殿は、スペインのグラナダにいまもその美しさを誇っている。天井にまで広がる微細な文様にはつい首が痛くなるほど見入ってしまう。イスラム社会の水への憧れは、噴水で潤う庭園に表れている。
この美しい宮殿を訪れたギタリストで作曲家のフランシスコ・タルレガが、その感動をもとに一晩で書いたのがクラシック・ギターの名曲「アルハンブラ宮殿の想い出」である。そのトレモロは微細な文様を表し、刻まれる低音はこだまする水の音を見たてていたのだろうか。この曲には、「祈り」という副題が付けられていた。キリスト教徒であるはずのタルレガがイスラム建築のなかで得た「祈り」の曲想とは何だったのだろうか。
音楽を通じた「文明の融合」には、可能性が秘められている。少なくとも異質を排除するのではなく、異質の文明に対する敬意を抱くことが「文明の衝突」を回避する第一歩であることはたしかだろう。
移りゆく「聖地」
音楽が不思議なのは、グローバルな展開がめざましいという点である。クラシック・ギターを見る限り、その聖地は世界のあちこちに拡散している。戦後しばらくは、スペインがその聖地だった。タルレガ門下の影響力は残り、アンドレス・セゴビアが巨匠として君臨していた。映画「禁じられた遊び」のナルシソ・イエペスが続く。
しかし、スペインの時代は永遠ではなかった。英国人のジュリアン・ブリームと豪州出身のジョン・ウィリアムスがスペイン独占の時代を終わらせた。日本の山下和仁も世界に注目され始める。
さらに冷戦の終結が風景を一変させる。世界のどこからもギタリストが登場する時代になった。中国、韓国、ロシア、旧ユーゴ、そして東南アジアにも広がっている。チュニジア出身のローラン・ディアンスが最高峰のパリ国立高等音楽院で教授になっている。主役はクロアチアのアナ・ビドビッチや韓国のパク・キュヒら女性である。
そして、ギターの「聖地」はキューバのハバナに移りつつある。オバマ米大統領の決断で米国とキューバは国交回復することになったが、クラシック・ギターの世界では、ハバナはとっくに中心地のひとつになっていた。作曲家兼ギタリストのレオ・ブローエルの存在は大きく、そのソナタはキューバへの求心力を高めている。キューバとの国交回復は音楽に先導されたとさえいえる。
「緊張」と「和解」
音楽が人の心をなごませるのは、「緊張」(テンション)のあとには必ず「和解」(レゾリューション)が来るからだろう。現実の世界は「緊張」が「緊張」を生む負の連鎖が続いている。「和解」が実現できるかどうかは不透明で不安はつのるばかりだ。
それでもなお、グローバル社会の緊張の連鎖を解き、和解に結びつけるうえで、人々の心に通う音楽の役割を信じたい。
「EUは危機を超えられるか ~中東危機と英国離脱~」
【入場無料・事前登録制】
日時:2016年10月31日(月)13:00~17:00
場所:明治大学 駿河台キャンパス グローバルフロント1F
グローバルホール(千代田区神田駿河台1-1)
主催:明治大学 国際総合研究所
後援:日本経済新聞社
■基調講演:「EUと日本」
(ヴィオレル・イスティチョアイア=ブドゥラ欧州連合大使)
開会挨拶 林 良造(明治大学国際総合研究所所長)
【第1部】 英国のEU離脱と欧州の行方
【第2部】 EUと中東 難民問題の背景
【第3部】 ユーロ危機は収束したか
【内容紹介・お申込みページ】
http://www.meiji.ac.jp/miga/news/2016/6t5h7p00000m1zvn.html
※定員になり次第締め切らせていただきます。
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