2018年10月13日、米ケンタッキー州リッチモンドで開催された選挙集会で演説するドナルド・トランプ米大統領。米国社会には大統領の言動がどうあれ全面的に支持する一定の強固な基盤がある(写真=AP/アフロ)

 世界同時株安は「トランプ・ショック」そのものである。米中をはじめ世界中で貿易戦争を仕掛けているうえに、禁じ手である金融政策への介入に本気で乗り出した。貿易戦争に為替をからめる手も使い始めた。二国間の貿易赤字を「損失」と考える誤った経済観から抜け切れないから、深刻だ。

 20カ国・地域(G20)の財務相・中央銀行総裁会議も協調できず、無力をさらけ出した。同時株安はいったん終息の気配があるが、トランプ大統領が貿易戦争をエスカレートさせ、金融政策への介入を続けるなら、トランプ・ショックはいつ再燃してもおかしくない。協調のリーダーであるべき超大国・米国の大統領自身が危機の震源になっている。

「リーマン・ショック10年」の警鐘空しく

 リーマン・ショック10年から1カ月も経たないうちに、世界同時株安は起きた。10日のニューヨーク市場でダウ平均が800ドル超の下げを記録したのを受け、株安は東京、上海はじめアジア市場や欧州市場など世界に波及した。米長期金利の上昇が引き金だが、米中貿易戦争などによる世界経済の不安が背景にあった。

 国際通貨基金(IMF)は2018年の世界経済見通しを3.7%と7月時点より0.2ポイント下方修正した。2019年も3.7%と0.2%の下方修正である。とりわけ米中貿易戦争の直接の当事国である米国は2.5%、中国は6.2%ともに0.2%の下方修正となった。

 それは米中貿易戦争に勝者がいないことを裏付けている。トランプ大統領は「貿易戦争はよいことで、勝つのは簡単だ」と公言してきたが、綿密なサプライチェーンなどグローバル経済の相互依存が深まり、米国経済がその核にあるなかで、米国こそが貿易戦争の「最大の敗者」になるだろう。

 トランプ政権の関税引き上げに対抗する中国もまた打撃を受ける。景気下支えのために預金準備率を引き下げたのはそのためだ。欧州連合(EU)も英国の離脱をめぐって不透明感が強まり、イタリアのポピュリスト(大衆迎合主義)政権の財政拡張路線がユーロの不安をあおっている。米国の出口戦略の余波で新興国は軒並み資本流出による通貨安に見舞われている。火種はあちこちに広がっている。

 「リーマン・ショック10年」をめぐって、筆者は9月12日付のこの欄で「次はトランプ・ショックか」と指摘した。それがわずか1カ月足らずで現実化するとは予想できなかったが、警告した通り貿易戦争に金融政策や為替への介入などトランプ・ショックの要件はすでにそろっていた。

けん制を超えるFRBへの介入

 トランプ大統領はかねて「低金利が好きだ」と述べている。不動産業にかかわった体験からきているようだが、ここにきての米連邦準備理事会(FRB)への「介入」は「けん制」の範囲を超えている。パウエルFRB議長の利上げ路線について「早く動く必要はない」と注文をつけたのは、世界同時株安直前の9日だ。このトランプ大統領の姿勢が、同時株安の要因になったのは事実だろう。

 ニューヨーク市場が大幅株安に見舞われると、今度は「FRBは狂ってしまった。引き締めすぎだ」と語気を強めた。まるでパウエルFRB議長の利上げ路線が株価下落の要因だといわんばかりである。FRBは年内にもう1度の利上げを予定しているが、これに待ったをかける姿勢をのぞかせたともいえる。