ドイツ銀危機で色あせる「ドラギ・マジック」
ECBにドラギ総裁が登場したことで、深刻だったユーロ危機が収束に向かったのは事実だろう。「ユーロ危機打開のために何でもする」という姿勢は、「ドラギ・マジック」と呼ばれた。欧州委員会、IMFとのトロイカ体制の形成が、PIIGS(ポルトガル、アイルランド、イタリア、ギリシャ、スペイン)と呼ばれる危機連鎖国を救ったのは間違いない。
前任のトリシェ総裁がどちらかといえば、金融緩和に慎重なドイツ連銀寄りの中央銀行家だっただけに、その手腕が際立ってみえた。
ところが、そのドラギ総裁にも勇み足はあった。いち早くマイナス金利を導入したことである。それは日本の金融機関と同様、ユーロ圏の金融機関の収益を悪化させることになる。盤石にみえたドイツの金融最大手、ドイツ銀行の経営を揺さぶっている。

米司法省はドイツ銀行が過去に住宅ローン担保証券の不正販売にかかわったとして140億ドル(約1兆4300億円)の和解金を要求した。ドイツ銀行は減額交渉に臨んでいるが、難航は避けられそうにない。
ドイツ銀行の危機の背景にあるのは、マイナス金利による金融機関の収益構造の悪化である。マイナス金利で和解金支払いに応じる経営体力がなくなっているのである。
こうしたなかでECBは難しい選択を迫られることになる。一部には、ECBもテーパリングに動くという見方もあるが、英国の欧州連合(EU)離脱決定の影響がユーロ圏に及ぶ恐れがあるなかで、緩和縮小には動きづらいはずだ。かといって緩和拡大も選択しくにい。とくにドイツ銀はじめ金融機関の経営を考えれば、マイナス金利の拡大はありえない選択肢だ。ECBもまた動くに動けないところにきていることになる。
中央銀行依存に限界
日米欧の金融政策が立ち往生しているのは、中央銀行依存が限界にきていることを示している。リーマン・ショック以降の緩和マネーの拡大は、世界のあちこちで格差を拡大させた。それが移民に対する排外主義やポピュリズムを生んだ背景にある。
危機打開に金融政策が重要な役割を果たしたのは事実だが、そろそろそれは限界にきている。むしろ、これ以上、緩和マネーをまき散らせば、世界に大きな弊害をもたらすことなる。だからこそ、時間をかけて慎重に出口を探るしかないのだろう。
金融政策依存が限界だからといって、財政出動にシフトするというのはいかにも安易である。保護主義の風潮を排し、環太平洋経済連携協定(TPP)などメガFTA(自由貿易協定)を実らせることが先決だ。第4次産業革命などイノベーションを競うのも重要である。
日米欧の金融政策が身動き取れなくなっているいまこそ、グローバルな視野で通商政策、構造政策を打ち出すことこそ肝心である。
「EUは危機を超えられるか ~中東危機と英国離脱~」
【入場無料・事前登録制】
日時:2016年10月31日(月)13:00~17:00
場所:明治大学 駿河台キャンパス グローバルフロント1F
グローバルホール(千代田区神田駿河台1-1)
主催:明治大学 国際総合研究所
後援:日本経済新聞社
■基調講演:「EUと日本」
(ヴィオレル・イスティチョアイア=ブドゥラ欧州連合大使)
開会挨拶 林 良造(明治大学国際総合研究所所長)
【第1部】 英国のEU離脱と欧州の行方
【第2部】 EUと中東 難民問題の背景
【第3部】 ユーロ危機は収束したか
【内容紹介・お申込みページ】
http://www.meiji.ac.jp/miga/news/2016/6t5h7p00000m1zvn.html
※定員になり次第締め切らせていただきます。
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