「官製相場」の恐れ
問題は黒田日銀が打ち出した「長短金利操作」が市場の自由を奪いかねないことだ。とりわけ長期金利の「コントロール」はむずかしいというのが金融の常識であり、かりに実現すれば「官製市場」の汚名を着せられることになる。物価上昇が2%を安定的に超えるまで「オーバーシュート型コミットメント」をするというのも違和感がある。
市場はつねにオーバーシュート(行き過ぎ)しがちだが、それを冷静にみつめるのが当局の態度であるはずだ。その当局がアニマル・スピリッツを発揮してオーバーシュートするというのでは中央銀行の信認に響きかねない。
出口でもがくFRB
FRBも出口でもがいている。9月には利上げできるというのが大勢の観測だった。イエレン議長も米国経済の底堅さを理由に早期利上げの可能性を示唆していた。
ところが、9月21日の米連邦公開市場委員会(FOMC)も金融政策の現状維持を決め、追加利上げをまた見送った。
FRBはテーパリング(量的緩和の縮小)から利上げに移ったが、まだ利上げは1回だけである。市場は「追加利上げ」といううなぎの匂いをかがされるだけだ。「利上げ見送り」で失望する繰り返しで、そのたびに為替相場は大揺れになっている。FRBの出口戦略がもたつけば、もたつくほど市場の波乱が続くことになる。とくにFRB内ではタカ派、ハト派が入り混じっており、それぞれに発言するたびに市場は右往左往する。タカ派が「低金利が長引けば、不動産に過熱リスクがある」といえば、ハト派は「もう少しデータを見極めたい」と語る。その影響を最もこうむっているのが円高に悩まされる日本経済である。
そうしているうちに、底堅かったはずの米国経済にも成長減速の気配がみえてきた。国際通貨基金(IMF)の改定見通しでは、2016年の米国の実質成長率は、2.2%から1.6%に減速する。

雇用の伸びも9月までの3カ月の平均で20万人と鈍ってきた。9月の失業率は5%に上昇した。完全雇用に達しておらず、賃金上昇にはつながらないという見方もある。
ここまでくると米大統領選の行方も見守る必要が出てくる。ヒラリー・クリントン大統領の誕生は揺るがないとみられるが、なおリスクは残る。年内の利上げはせいぜい12月の1回だけというのが有力だ。
イエレンFRBのもたつきは、かならずしも金融政策運営のまずさからきているわけではない。大幅緩和からの出口戦略がいかにむずかしいかを示している。比較的経済が底堅い米国でさえ、出口戦略をあせれば、影響は大きくなる恐れがある。それだけに、慎重な出口戦略が求められる。同時に緩和にあたっても、難しい出口戦略を念頭に置かざるをえない。それが米国の出口戦略が示す教訓といえる。
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