北朝鮮問題もあり日米が同盟関係を維持するのは当然だが、国際社会で孤立するトランプ大統領と親密すぎるのは、地球を俯瞰する外交とはいえないだろう。トランプ大統領に近すぎる安倍首相が世界からどう見られているかを知るべきだ。同盟国であればこそ、保護主義、排外主義に傾斜するトランプ大統領を真っ向から批判するのは当然の国際責務である。それこそ真の友人の態度だろう。
「管理貿易」化の恐れ
TAGによる日米2国間交渉で焦点になるのは、農産物関税だとみられている。安倍首相は「TPPで決まった水準を超えて引き下げはない」と強調するが、米側が交渉で提起する可能性が消えたわけではない。農産物問題が行き詰れば、米側は投資、サービスを含めて2国間FTAを求めてくるかもしれない。
何より事実上棚上げされている自動車関税問題を持ち出す恐れもある。2.5%の現行関税を25%にまで引き上げるという「脅し」である。自動車関税引き上げ問題が再燃すれば、日本経済は大打撃を受ける。米国の自動車業界も反対を表明している。
こうした事態を防ぐために持ち出されかねないのは、数量規制である。日本製自動車の対米輸出と米国製自動車の対日輸入が「管理貿易」化する危険がある。
トランプ政権は、これまでの2国間交渉で相次いで管理貿易を打ち出している。韓国とのFTA交渉や北米自由貿易協定(NAFTA)見直しにおけるメキシコとの交渉で、数量規制が持ち込まれた。
過去の日米通商交渉も繊維、鉄鋼、カラーテレビ、自動車、半導体といずれも「管理貿易」が着地点になっている。それは日米双方にとって、何の効果ももたらさない不毛の選択だった。この苦い教訓に学ばず、政治的アピールだけを優先しようとするのはおろかである。
数量規制に加えて、トランプ政権が持ち出す可能性があるのは、「為替条項」の盛り込みだろう。貿易と為替をからめて、「意図的な通貨安誘導」を防ごうというものだ。この「為替条項」は米韓FTAやNAFTAの米墨合意に盛り込まれている。
日米2国間交渉は、結局、強者・米国の思い通りになりかねない。それは世界貿易を縮小させ、世界経済の足を引っ張ることになる。
誤った経済観に基づく2国間主義
なぜ、トランプ政権は世界中と貿易戦争に打って出たのか。苦戦が予想される中間選挙で中西部白人層を中心にトランプ陣営の地盤を固めたいのだろうが、2国間の貿易赤字を解消しようという考え方そのものが誤っている。
マクロ経済学では、経常収支を決めるのは国内の貯蓄投資(IS)バランスである。貯蓄が投資を上回れば経常黒字になり、投資が貯蓄を超過すれば経常赤字になる。2国間の貿易赤字を解消しようとして手を尽くしても、経常収支の赤字解消にはつながらない。
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