だからこそ、EUは世界のルール・メーカーになれるのである。地球温暖化防止のためのパリ協定はトランプ大統領の離脱表明にもかかわらず生きている。米政権内には残留を求める声も出始めている。保護主義を排し自由貿易を追及する姿勢は、日EUの経済連携協定の大枠合意に表れている。そして欧州発のEVシフトである。

 軍事優先に傾斜しないEUの節度ある行動も信頼感の背景にある。とりわけドイツは北大西洋条約機構(NATO)内での応分の負担には応じるが、決して軍事大国をめざさないことでEU内の信認を得た。ナチスへの反省からだ。軍事への傾斜につねに慎重になることこそ、「グローバル・ソフトパワー」の原点である。

新たな「西洋の時代」の始まり

 英国のジャーナリスト、ビル・エモットは「『西洋』の終わり」というが、本当だろうか。トランプ大統領の登場で米国の威信が決定的に低下し「米国の時代」が終わりを告げているのはたしかだろう。かつての覇権国家、英国はBREXITで苦しみ、新「英国病」に悩まされるだろう。BRETURN(EUへの復帰)でもしないかぎり、この病から解放されないかもしれない。

 といって、これで西洋が終わるわけではない。「西洋」という概念が想定する「東洋」(オリエント)とはまず中東である。混迷する中東が浮上するとは考えにくい。それどころかますます泥沼化するだろう。新興勢力として中国は経済力や軍事力に傾斜し、「法と正義」にもとづくソフトパワーに決定的に欠ける。残るのは日本だが、長期にわたる経済停滞でかつての活力は失せている。内向き姿勢は変わらず、残念ながら「グローバル・ソフトパワー」には程遠い。

 「西洋」の終わりではない。西洋のなかでEUシフト、欧州大陸シフトが起きているのである。新たな「西洋の時代」の始まりとみるべきかもしれない。