米国のグリップが緩むなかで、自国本位主義が横行することになる。ロシアのクリミア併合や中国の海洋進出はその代表例だが、英国のEU離脱決定もまた自国本位の表れといえる。「離脱すれば、英国は列の最後尾になる」というオバマ大統領の警告にもかかわらず、キャメロン英政権は国民投票という名のポピュリズム任せにしたのである。

英国発のEU悲観論

 「ユーロペシミズム」(欧州悲観論)はたいてい英国発である。ECSCの創設に加わらず、欧州経済共同体(EEC)の設立にも参加しなかった英国は、EUと距離を置いてきた。移動の自由を規定したシェンゲン協定にも入らず、ユーロにも参加しなかったのだから、EUには半身の姿勢できたといっていい。そこには、EUの主力である欧州大陸諸国への特別の思いがあるだろう。

 まず「強大なドイツ」への警戒感がある。「フランスの文化力」へのある種の劣等感も潜んでいるだろう。

 その裏返しとして「欧州人」に対する優越感も垣間見える。英国の作家、アガサ・クリスティがえがく名探偵、エルキュール・ポアロはどこか滑稽な小男のベルギー人である。英国人の欧州観には、劣等感と優越感がないまぜになっているようにみえる。

 皮肉なのは、英国発のEU悲観論がいま英国自身を苦しめている点だ。世界共通語である英語を生かせる英国の発信は伝播力が極めて大きい。世界中が英国の独特のEU観を欧州全体に共通する見方だと勘違いしてきている。それが「ユーロ危機」や「EU危機」を世界中で増幅した面は否めない。

 そのEU悲観論のなかで、英国自身がEU離脱を選択したのである。EU離脱決定は「英国の独立」どころか「英国の分裂」を招いている。自縄自縛の選択である。英国は混迷のなかで「大後悔時代」をさまようことになるだろう。

求心力と遠心力

 これまでもEUには求心力と遠心力が交互に作用してきた。筆者が日本経済新聞ブリュッセル特派員だった冷戦末期には、欧州共同体(EC)に遠心力が作用していた。EC加盟国はまだ10カ国にすぎず、若年失業は深刻だった。米ソ対立で欧州には核の危機も広がっていた。サッチャー英首相は農業補助金などをめぐって、独仏枢軸と対立し、EC首脳会議の決裂もめずらしくなかった。冷戦終結を前にした「たそがれの欧州」の時代だった。

 そしていまEUはメルケル首相も認めるように「危機的状況」にある。反EUの機運から、EUには遠心力が働いているとみる向きも多い。たしかにEUは内では混迷しているが、外からはなお「ユートピア」に映っている。自由で民主的で豊かな市場経済の連合なのである。

 ウクライナ危機が起きたのは、ウクライナがそのEUへ急接近したことに、ロシアのプーチン政権があせりをみせたことが背景にある。そこにはEUの大きな吸引力がある。中東危機を受けて、難民が押し寄せるのもEUの吸引力の大きさを物語る。もちろん地理的に近いのは最大の理由だろうが、ロシアでもインドでも中国でも、そして米国でもなく、なぜEUにばかり向かうかである。

 難民問題はEU混迷の大きな原因だが、EUの吸引力の大きさととらえれば、別の解決法もありうるだろう。難民を経済発展の活力源とする考えはメルケル独首相によって打ち出されたが、危機にあるイタリアでも、ボルドリーニ下院議長らにこの考え方が受け入れられている。EUの懐の深さを示している。