欧州連合(EU)は、最大の岐路にさしかっている。ユーロ危機は小康状態だが、イタリアの銀行不安など火種は残る。中東危機と連鎖する難民問題はEU内に亀裂を招いている。英国のEU離脱決定の衝撃は大きい。さすがのメルケル独首相も「EUは危機的状況にある」と警告せざるをえない。しかし、これでEUが崩壊に向かうとみるのは間違いだ。2度の世界大戦を経てできたこの平和の連合は簡単には崩れない。求心力と遠心力を繰り返しながら、後で振り返ると、着実に前進しているはずだ。「たゆたえども沈まず」なのである。
英抜きサミット、薄氷の結束
スロバキアの首都プラチスラバで16日に開いた英国抜きのEU首脳会議は、移民・難民や対テロ対策などでかろうじて結束し、半年かけてEUの将来を決める行程表を固めた。危機回避のために再結束を優先する場になり、あえて難題には踏み込まなかった。
ともかくEU27カ国で再結束したことで分裂の危機を防いだが、EU内の足並みの乱れも残っている。経済戦略の路線をめぐって不満をもつイタリアのレンツィ首相は共同記者会見に顔をみせなかった。英抜きのEUをメルケル独首相、オランド仏大統領とともに担う立場にあるレンツィ首相の不在は、独仏伊による新トロイカ体制の先行きに暗雲を投げかけている。

EUの国際政治学
戦後初めてといえるEUの危機は、国際政治力学の変化とからんでいる。
EUの歴史をみると、国際政治の大きな節目で、EUが大きな展開をみせることが証明できる。EUの原点である欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)は、米ソ冷戦の始まりのなかで創設された。米国のマーシャル・プラン(欧州復興計画)のもとで、欧州統合は動き出したのである。2度と戦争をしないという平和の理念に基づいて独仏和解は進められたが、それを支えたのは、覇権国・米国の冷戦戦略だったのである。
冷戦の終結が次の大きな節目になる。ベルリンの壁が崩壊し、東西ドイツの統一が実現する。ドイツにとっての悲願は、「強大なドイツ」の再来という疑念を欧州内に生む。それを払しょくするために、独仏の妥協によって創設したのが欧州単一通貨ユーロである。合わせて、EUは民主化、市場経済化する旧東欧圏などに急拡大する。「大欧州」の形成である。こうして、EUは深化と拡大をともに実現する。
そのEUが「危機的状況」に直面したのは、米国一極時代が終わり「主役なき世界」に突入したことと無縁ではない。オバマ米大統領が「米国は世界の警察官ではない」と宣言するなかで、あちこちに危機が広がったのは事実だろう。オバマ大統領の姿勢は「賢い米国」を反映しているといえるが、その余波は大きかった。とりわけ、イラク、シリアと広がる中東危機は、難民の大量流入となって、EUを揺さぶっている。
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