経済界に危機感──競争力削ぐ
トランプ大統領の人種差別容認には、米経済界に危機感が高まった。米企業トップはトランプ大統領の言動を内心、不快に思いながらも、正面切って批判すれば、攻撃されかねず、ひたすら沈黙を守ってきた。その米企業トップも人種差別容認には黙っていられなかった。薬品大手、メルクのフレージャーCEO(最高経営責任者)は「米国のリーダーは偏狭な白人至上主義を明確に拒否することで米国の多様性を尊重すべきだ」と述べ、助言役を辞任した。
これにインテルのクルザニッチCEOなど先端企業のトップが続いた。助言機関は解散せざるをえなくなった。
米企業トップが危機感を募らせるのは、移民国家である米国では多様性こそ競争力の源泉であり、人種差別は米企業の競争力を削ぐと考えるからだ。世界各国からの多様な高度人材の能力を生かすことが米企業の経営戦略であり、トランプ流の人種差別はこれを真っ向から否定するものと受け止められた。
トランプ・リスクの世界
トランプ大統領への批判が米軍幹部からも巻き起こったのは異例といえる。米軍の最高司令官である大統領に対して、軍幹部が公然と批判するのはタブーとされてきた。にもかかわらず、陸軍のミリー参謀総長は「陸軍は人種差別や過激主義、憎しみを許さない。我々が支持する価値観に反する」と述べ、これに空軍のゴールドフェイン参謀総長も賛同した。米軍の制服組トップがあえて意見表明したのは、人種差別を容認すれば多様な人種で構成される現役の将兵の士気にも響きかねず、軍運営に支障をきたすという危機感があるからだろう。軍の運営で、マイノリティの役割は非常に重要である。
北朝鮮の核・ミサイル開発など世界の安全保障環境が厳しさを増すなかで、トランプ大統領の言動こそがリスクになっている。北朝鮮の挑発に対して、同じ次元で挑発するトランプ大統領の言動に、中ロが反発するだけでなく、メルケル独首相はじめ欧州首脳もはらはらしながら見守っている。
「トランプ・リスク」が世界に広がるなかで、米国の当局者の間には、トランプ抜きで緊張緩和をめざす動きも出てきた。ティラーソン国務長官とマティス国防長官が北朝鮮問題で「北朝鮮が挑発をやめれば交渉の用意がある」と外交優先による危機打開を連名で米ウォールストリート・ジャーナル紙に寄稿したのもその一例だろう。
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