トランプ政権では、高官の辞任や更迭が相次いでいる。ロシア疑惑で安全保障担当のフリン大統領補佐官が退任したのを皮切りに、コミー連邦捜査局(FBI)長官、スパイサー大統領報道官、プリーバス大統領首席補佐官らが次々に辞任した。しかし、これら一連の辞任・更迭劇と今回のバノン氏解任を同列で論じるわけにはいかない。
極右ポピュリストであるバノン氏の存在こそトランプ政権の本質を示していたからだ。トランプ政権の本質は、極右と保守の連立政権である。第2次大戦後、主要先進国で政権の中枢に極右ポピュリストが座ったのは、トランプ米政権が初めてといっていい。欧州主要国ではフランスの国民戦線など極右ポピュリズムの台頭が目立ったが、政権の座は遠かった。欧州連合(EU)を基盤とする成熟国家は、極右ポピュリストを封じ込めるのに成功した。第2次大戦の重い教訓が生かされたからだ。
バノン氏がもたらした悪夢
これに対して、極右ポピュリズムを政権の中枢に置くことを容認した米国民の選択は、歴史に残る過ちだろう。バノン氏が実践したのは特定のイスラム圏などからの移民、難民の排斥だった。そして、自由貿易を否定し保護主義を採用した。多国間主義を排し、2国間主義に傾斜した。環太平洋経済連携協定(TPP)から離脱し、北米自由貿易協定(NAFTA)を見直す。世界中にサプライチェーンを張り巡らせるグローバル経済の現実を無視し、その進展に待ったをかけた。
それだけではない。地球温暖化防止のためのパリ協定からの離脱を決めた。ドイツのメルケル首相を「他国(米国)に頼れない時代になった」と嘆かせる暴挙だった。トランプ大統領は「G7(主要7カ国)の悪役」になり、「地球の敵」になったのである。
トランプ大統領が世界からの悪評にも動じなかったのは、「米国第一主義」を掲げるバノン氏の強硬論が背景にあったからだろう。
バノン氏はしかし、その強硬論ゆえにトランプ政権内ではしだいに孤立する。大統領の女婿であるユダヤ人のクシュナー上級顧問と真っ向からぶつかったほか、ティラーソン国務長官、コーン国家経済会議(NEC)委員長、それにケリー首席補佐官とも対立した。与党・共和党幹部からも更迭要求が出ていた。それでもトランプ大統領はこの極右ポピュリストの「盟友」を最後まで擁護したのである。
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