第2の経済大国になったとはいえ、中国に軍事戦略と通貨戦略を連動させるだけの底力はない。「海洋強国」への軍事戦略に傾斜すれば、中国の経済再生への道は遠くなる。

 中国経済は成長屈折のなかで苦しい転換期にある。過剰設備を抱える鉄鋼、石炭、石油など国有企業は大規模なリストラを迫られている。雇用悪化から消費の低迷を招く恐れもある。中成長の維持すら難しく、10年後には2-3%の低成長に陥るとの観測すらある。不良債権問題は深刻化し、金融不安を招く恐れもある。にもかかわらず、なお海洋強国をめざせば、中国経済は負の循環に陥りかねない。

対峙より協調を

 こうしたなかで日本は米国とともに中国に南シナ海を巡って法の順守を重ねて求めるしかない。尖閣諸島での小競り合いに発展することを防ぐため日中のホットラインを確立することが肝心だ。

 同時に、中国に対峙するのではなく、経済で協調することをめざすべきだ。中国経済の停滞は日本経済の凋落に直結する。すでに定着している日中経済の相互依存をさらに深めるしかない。

 中国が「経済優先」を鮮明にするなら、協力の可能性も開ける。運営の透明性を高めるため、AIIBに米国とともに参加することだ。日米が参加すれば、AIIBは中国主導ではなくなる。将来は、アジア開発銀行との統合も検討していい。

 環太平洋経済連携協定(TPP)の実現は、内向きに傾斜する米大統領選のなかで厳しさを増しているが、日中が参加する東アジア地域包括的経済連携(RCEP)と統合することで、アジア太平洋の自由貿易圏が形成できる。日米中の融合関係が深まる可能性もある。

 中国は9月に杭州で開く9月のG20サミットで正念場を迎える。かたくなに「海洋強国」への強硬姿勢を取るか、「経済優先」に立ち返るかである。人民元が国際通貨になれるかどうかの大きな岐路でもある。



世界経済の新リスク』(ムック)8月8日発売

 BREXIT(ブレグジット、英国のEU離脱)という国民投票結果は、世界中の人々を驚愕させました。
 本書では、英フィナンシャル・タイムズの著名コラムニストのほか、世界的に著名な知識人や各分野の専門家の寄稿はじめ、企業経営者のインタビューや各地の現地リポートなどによって、英離脱で明らかになった新たな経済や政治のリスクについて分析します。
 世界的な低成長と広がる格差、台頭するポピュリスト、そして、為政者に怒りと不満をぶつける労働者たち――。これらがグローバル資本主義に突きつける課題について解き明かす一冊です。

≪主な内容≫
■巻頭インタビュー イアン・ブレマー氏(国際政治学者)
■Chapter1 寄稿 世界の知の巨人が読む 英離脱後の世界
 ジョセフ・スティグリッツ (米コロンビア大学教授)
 ローレンス・サマーズ (米ハーバード大学教授 米元財務長官)
 マーティン・ウルフ (英フィナンシャル・タイムズ チーフ・エコノミクス・コメ ンテーター)
 ほか全7人。
■Chapter2 日本も直撃「失われる」10年
■Chapter3 寄稿 5つの論点で考える?来るべき新たなリスク
 EU:英国分裂とEU再結束につながる国民投票 岡部直明
 ドイツ:強まるEU内の遠心力 ポピュリストを止められるか 熊谷 徹
 金融:日本にも波及しかねない「既知の未知」リスク 倉都康行
 政治:なぜ英国の有権者は「損」な選択を行ったのか 加藤創太
 ほか
■Chapter4 世界を覆う「低成長」の雲
 激震 パナマ文書
 ほか
【発行:日経BP社 定価:907円+税】