その一方で、日本にはEUそのものとの関係を重視しなければならない政治的事情もあった。トランプ流保護主義が鉄鋼、アルミニウムから自動車に及べば、自動車依存の大きい日本とEUの経済は致命的な打撃を受ける。日本とEUが経済連携協定の調印を急いだのは、トランプ流保護主義に対し日EUの連携強化を固めることが、重要になってきたからだった。

 日本とEUとの連携を進めるうえで、EUから離脱する英国に「特別扱い」を認めていいのかという問題に突き当たる。EU側はBREXITにあたって「英国のいいとこ取りは許さない」(メルケル独首相)と警告してきている。英国に対する「特別扱い」が「いいとこ取り」にあたるかどうかは別にして、日本が英国のTPP参加を積極的に後押しすることになれば、日本とEUとの間に隙間風が吹くことも考えられる。TPPをめぐる国際政治力学は複雑である。

異なる「同盟」と「自由貿易協定」

 英国はEUを離脱し、TPPに参加する「脱欧入亜」をめざすことになるが、はっきりしておかなければならないのは、EUという「同盟」とTPPという「自由貿易協定」は本質的に異なるという点である。

 第2次大戦後に創設されたEUは、欧州の中核にある同盟である。それは単なる経済同盟を超えた「平和同盟」である。欧州を舞台にした2度の世界大戦のあと、第3次大戦が起きていないのは、独仏和解を土台にしたEUの存在が大きい。東側に対する安全保障では、米国を中心に北大西洋条約機構(NATO)があるが、これは欧州というより西側同盟のための軍事組織である。

 英国内にはEUから離脱しても欧州には残るという発想がある。EUは単なる無駄の多い国際機関にすぎないという冷めた見方もある。しかし、欧州の中核にあるEUから離脱するということは、「欧州からの離脱」そのものなのである。

 EUには国家主権を超えた超国家機能や主権の共有機能もある。歴史的にも機能としても、重みのあるEUに対して、TPPは、どんなに先端的であっても自由貿易のための協定にすぎない。EUとは比べようのない一取り決めである。

 EUとTPPの間にあるこうした本質的な違いも考えずに、「脱欧入亜」をめざすとすれば、英国は明治日本が目標にした賢く思慮深い先進国とはいえないだろう。

難航極めるBREXIT交渉

 英国とEUとのBREXITをめぐる交渉は、実質期限である10月を前に難航を極めている。メイ首相が打ち出したソフト離脱路線のもと、強硬離脱を唱えてきたデービス離脱担当相、ジョンソン外相が相次いで辞任し、少数与党であるメイ政権の基盤はさらに弱体化した。

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