ユーロ危機に直面したドラギ総裁は、「ドラギ・マジック」と呼ばれる超緩和で危機を防いだが、出口戦略はユーロ圏経済の実態をにらみながら、現実的選択を取っている。タカ派で次期総裁候補のワイトマン独連銀総裁からすると、利上げは遅すぎると映るが、ギリシャ、イタリアなどなお難題を抱えるユーロ圏経済全体からみると、正しい道を歩んでいるといえる。FRBに比べると出口戦略は遅れているが、超緩和から抜け出せない日銀と比べるとずっと先を行っている。

 ECBの政策決定に「意図的なユーロ安誘導」という選択肢はありえない。タカ派でいつも通貨高を求める独連銀の影響力はいまなお大きい。EUを「敵」と考えるトランプ大統領だが、ECBの政策を「通貨、金利を低く誘導している」と決めつけるのは、無理がある。

危険なFRBへの介入

 危険なのは、FRBの金融政策へのトランプ大統領の介入である。トランプ大統領は、着実な出口戦略で市場の評価も国際的評価も高かったイエレン前議長をあえて交代させて、経済専門家ではないパウエルFRB理事をFRB議長に起用した。経済政策の要にあるFRB議長に「トランプ印」を置きたかったからである。

 パウエルFRB議長は就任直後は「低金利好き」のトランプ寄りになるのではないかと警戒されたが、その後、年4回の利上げをめざすなど、利上げ路線を確実に進めている。懸念された市場との対話も巧みだと安堵が広がっている。

 そのうえ、パウエル議長はトランプ発の貿易戦争に警鐘を鳴らしている。議会証言では「幅広い製品に長期にわたって高関税が課せられれば、米国や相手国の経済に悪影響をもたらす」と保護主義に警告した。自由貿易が米国経済の成長に貢献してきたとも指摘し、トランプ政権による自由貿易からの後退に懸念を示している。

 FRB議長として、こうした正論をはくのは当然の使命である。ボルカー、グリーンスパン、バーナンキ、イエレンと、どの歴代議長もトランプ暴走を目の当たりにすれば、苦言を呈したはずだ。

 このパウエルFRBにトランプ大統領はあからさまに介入した。FRBの利上げを「好ましくない」と明言した。「(景気が)上向くたびに、彼らはまたやりたくなる。我々は経済に打ち込んでいる。それで金利が上がるのをみるのは好ましくない」というのである。

 このトランプ発言は、金融政策とは何かということを、いかにわかっていないかを示している。景気が悪化すれば、利下げが求められるが、景気が好転すれば、利上げが必要になる。決断すべき利上げを先送りすれば、インフレなど危機のマグマが蓄積するだけだ。適宜適切で弾力的な政策運営こそ重要である。単なる「低金利好き」は、経済政策の基本から外れる。

 最大の問題は、FRBに対する介入が「中央銀行の独立性」を損なう恐れがあることだ。中銀の独立性は、成熟した民主国家の基礎的条件である。中銀の独立性が維持できているかどうかで、民主国家の成熟度がわかる。政権の意向とは離れて、中銀は自ら政策判断することが求められる。そのために多様な見方をもつ経済専門家が理事や地区連銀総裁として配され投票権を付与されている。

 歴代大統領はこのFRBの独立性を重視してきた。中央銀行への政治介入はタブーであり、政治家の命とりになることを熟知していた。トランプ大統領がこの基本原則を無視して、FRBへの介入に踏み込むなら民主国家としての米国の信認を失墜させるだけだろう。

損なわれるドルの信認

 国際政治から国際経済に及ぶトランプ大統領の暴走は、超大国・米国の信認を揺るがし、ひいては基軸通貨・ドルの信認を損なうことにつながる。世界貿易機関(WTO)のルールを無視する保護主義の発動、地球温暖化防止のためのパリ協定からの離脱は、米欧同盟の亀裂を招いた。ロシア疑惑のなかでのロシア接近が内外のトランプ不信を高めた。FRBへの介入は、一連の「トランプ第一主義」の究極の姿を映し出す。