それ以上に、この日欧連携は排外主義、保護主義、2国間主義というトランプ流への大きな警鐘になるはずだ。鉄鋼の輸入制限など保護主義の歯止めになることが期待される。とくに安倍晋三首相はトランプ大統領との距離が近すぎると指摘されていただけに、EUとの連携を先行させた意味は大きい。これまで日米欧の先進国の3角関係のなかで最も希薄だとされてきた日EU関係を優先したのは、日本の新たな戦略といえる。トランプ政権の言いなりになるのではなく、EUとの連携を背景に、トランプ政権への発言力を強めることもできるだろう。

 英国の離脱決定で揺らいだEUにとっても、日本との連携は再結束への大きな足掛かりになる。EUと日本が自動車やチーズといった重要物資で急速に歩み寄ったのは、双方が単なる貿易合意を超えた戦略的意義を共有したからだろう。米抜きの先進国2、3位連合は世界のGDPの3割を超えるが、影響力の大きさはGDPの規模を上回るだろう。

孤立する「大英帝国」

 EUに再生の可能性が開けている一方で、EU離脱を決めた英国は苦闘している。メイ首相がBREXIT(英国のEU離脱)のために政権基盤を万全にしようとして繰り上げ実施した総選挙は裏目に出た。キャメロン前首相が実施したEU残留か離脱かを問う国民投票に続く「2度目のオウンゴール(自殺点)」である。メイ政権の政権基盤はぜいじゃくで、移民規制を優先する「ハード離脱」ではなくEU市場との結びつきを優先する「ソフト離脱」を求める声も浮上している。しかしEU側は「いいとこ取りは許さない」(メルケル独首相)という姿勢を変えていない。

 英国経済はEU市場に照準を合わせた外資によって成り立っている。EUあっての外資立国なのである。EUとの離脱交渉が混迷すれば、欧州大陸などへの外資流出が加速し、ポンド危機に陥る危険もある。BREXITからBREGRET(離脱をめぐる後悔)へ、そしてBRETURN(EUへの再復帰)に向かうという声もある。少なくともいま英国は「大後悔時代」を迎えたことは間違いない。

 EUから離れても生きていけるという「大英帝国」の思想は、グローバル経済の現実にそぐわない。大国主義の幻想というしかない。トランプ大統領はメイ首相に早期の自由貿易協定締結の期待を表明したが、各国との自由貿易協定の交渉は、EUとの離脱交渉後に「後回し」されることに変わりはない。

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