トランプ大統領は就任以来、多国間の国際協調の枠組みを次々に壊してきた。環太平洋経済連携協定(TPP)から離脱し、北米自由貿易協定(NAFTA)を見直すことにした。北大西洋条約機構(NATO)を「時代遅れ」と語り、EUは「英国に続いて離脱が相次ぐ」と言い放った。地球温暖化防止のためのパリ協定からは離脱し、イランの核開発合意(米英独仏中ロ)も見直す構えだ。
G7首脳会議やG20首脳会議でも「悪役」や「壊し屋」を演じるのも、多国間の国際協調を根底からひっくり返すトランプ流の一環だろう。このままでは、国際通貨基金(IMF)、世界銀行そして国際連合といった戦後の国際的枠組みについて見直しを迫ることになりかねない。
トランプ流を反面教師にEU浮上
歴史が皮肉なのは、極右ポピュリズム(大衆迎合主義)の台頭で危機にさらされていたEUがトランプ流による大混乱を反面教師にして、再浮上していることである。フランスでは、史上最年少のマクロン大統領が極右、国民戦線のルペン氏や抑えて誕生した。メルケル独首相と組む仏独連携は、EU再生の原動力になる可能性を秘めている。
トランプ大統領がイスラム圏からの移民、難民を規制し、排外主義、保護主義、2国間主義を実行に移して世界が混乱すればするほど、移動の自由、自由貿易、多国間主義という基本原則を掲げるEUが浮上する構図である。オバマ米大統領の国際協調主義によって米国が獲得していた圧倒的な「ソフトパワー」は、いまEUが手にしている。トランプ流のおかげで、米国からEUへのソフトパワー・シフトが起きつつある。国際政治はいまや、覇権国・米国の大統領ではなく、メルケル・マクロンの「MMコンビ」のけん引力に委ねられようとしている。
日EUのEPA合意の国際政治力学
G20首脳会議の目前で、日本とEUが経済連携協定で大枠合意したのは、単なる貿易合意を超えた多面的な戦略的意味をもっている。トランプ大統領による貿易の2国間主義を、メガFTA(自由貿易協定)の多国間主義に引き戻したことがまず大きい。米国抜きのTPP11を再起動させるし、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の交渉内容を底上げする可能性もある。TPPとRCEPの結合によるアジア太平洋の自由貿易圏化への道も開けるだろう。
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