それでも、WTO原則に基づく自由貿易協定(FTA)が網の目のように広がり、環太平洋経済連携協定(TPP)のようなメガFTAの潮流も起きている。WTOの貿易紛争の処理機能はこれまで以上に重要になる。多角的な自由貿易体制の本拠として、その存在感は失われていない。
トランプ大統領はかねてWTOに不満を表明しており、「WTOが米国を適切に扱わないのであれば、行動を起こす」と離脱の可能性をちらつかせた。この発言は、各国との通商交渉を有利の導くためのディールかもしれないが、WTO離脱は米国が築いてきた自由貿易の盟主の座を捨てることを意味している。
「国連離れ」も加速
ブレトンウッズ会議は戦後の国際経済秩序を構築する場だったが、その対として、1944年8月から10月にかけてワシントン郊外で米国を中心に連合国が戦後の国際政治秩序を話し合ったのがダンバートン・オークス会議だった。国際連合はここから生まれる。
トランプ大統領はその国連にも批判を強めている。まず地球温暖化防止のためのパリ協定からの離脱である。パリ協定は国連の気候変動枠組条約締約国会議(COP21)で合意したものだ。オバマ政権下でパリ協定を主導した米国の離脱は、地球環境問題の打開に大きな影を落としている。
トランプ政権はさらにユネスコから、そして国連人権理事会からも脱退した。これらの組織や理事会が問題を抱えているのはたしかだが、だとすれば、脱退ではなく内部から改革する選択肢があったはずだ。
国連の中枢である安全保障理事会では、冷戦期には旧ソ連が孤立し、拒否権を連発して国連を機能不全に陥らせた。へたをすると今度は孤立する米国が拒否権を連発するという事態になりかねない。歴史の皮肉である。
米欧同盟に大きな亀裂
戦後の国際秩序を担ってきた米欧同盟も揺らいでいる。戦後の混乱期に米国はマーシャル・プランを通じて欧州の復興を支援する。独仏の和解によって進んだ欧州統合も米国の支援なしには実現しなかった。それがいまのEUに結実している。
そのEUと米国は貿易をめぐって「敵対関係」になってしまった。トランプ大統領が当初は適用を見合わせて鉄鋼、アルミニウムの高関税をEUにも課したことが引き金だ。これに対してEUは米国製のハーレーダビッドソンなどに報復関税を課した。
ハーレーダビッドソンはEU向け製品の生産を海外移転する方針を打ち出すなど波紋は広がっている。トランプ大統領の主張通り、EUからの自動車輸入に高関税を課すことになれば、トランプ発の保護主義が世界経済を直撃する事態になりかねない。
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