ワールドカップでは、モロッコ、チュニジア、ナイジェリア、エジプト、セネガルといったアフリカ勢も第1次リーグですべて敗退した。アフリカ勢の総崩れは36年ぶりである。

 アフリカから欧州への難民の増加がEUの難民危機を深刻化させている。ワールドカップにおけるアフリカ勢の敗退はそれぞれに検証する必要があるだろうが、アフリカ勢総崩れは、この難民危機と無縁とはいえないだろう。

されどメルケル

 EU首脳会議の合意では、イタリアなどに上陸した難民が他の国に移動しないよう加盟国が必要なあらゆる措置を取る点が盛り込まれた。メルケル独首相は、ギリシャ、スペインとの間で難民送還について合意したと表明した。これに対して、ゼーホーファー内相はEU首脳会議の合意に不満を表明、内相とCSU党首の辞任を示唆した。メルケル首相の窮地はなお続く。

 欧州への難民流入は年間100万人を超えた2015年に比べると大幅に減っている。しかし地中海を船で渡ろうとする難民はあとを絶たない。すでにEUに流入した難民にどう対応するかも定まっていない。EU全域に極右ポピュリズム勢力が高まるなかで、反難民を鮮明にするイタリアやオーストリア、旧東欧圏との亀裂をどう防ぐか、EUの難民問題はこれからが正念場である。

 もともと問題を拡散させたのは、メルケル首相自身の寛容すぎる難民政策だったが、欧州にはなおキリスト教精神に基づいてそこにいる弱者に手を差し伸べる気風は息づいている。とくにトランプ米大統領の極端で非寛容な排外主義が世界を揺るがしているだけに。EUの倫理観が国際社会では重みを増している。

 メルケル首相は連立政権維持とEU内の調整に加えて、「世界のアンカー」という重要な役割を引き続き求められている。「されどメルケル」なのである。

EU再生のカギは独仏ツートップ

 難民問題で紛糾したEU首脳会議は、EUが抱える多くの難題を先送りした。2019年3月に迫る英国のEU離脱(BREXIT)は、今回の首脳会議で大筋合意し、10月の会議で決着させる必要があった。しかし、北アイルランドとアイルランドの国境問題や離脱後のEUと英国との自由貿易協定(FTA)の枠組みなど重要課題が詰まっていない。このままでは、何も決まらないまま「無秩序な離脱」になる危険もある。

 そうなれば、英国経済は資本流出によるポンド危機から深刻な打撃をこうむる。EU市場と外資に依存してきた英国にはかつての「英国病」にさいなまれることになる。メルケル首相は英国に対して「いいとこ取り」は許さないと強調してきたが、英国経済の危機がドイツ企業を含めEUを巻き込む恐れも出てくる。

 マクロン仏大統領が先導しているユーロ改革もなかなか進まない。ユーロ圏首脳会議では、財政危機に見舞われたユーロ加盟国を支援する欧州安定メカニズム(ESM)を欧州版国際通貨基金(IMF)に衣替えし、機能強化する点では合意した。しかし、共通の預金保険制度の創設やユーロ圏共通予算については具体策は固まらなかった。

 ユーロ改革のカギである「財政統合」をどこまで進めるかをめぐっては、急進改革をめざすマクロン大統領と漸進改革にとどめようとするメルケル首相の間でなお温度差がある。

 それは、ワールドカップで順当に勝ち上がるフランスと「歴史的敗北」を喫したドイツとの落差かもしれない。EU再生のカギを握るのは、独仏ツートップの連携である。