
サッカーのワールドカップは世界最大のスポーツイベントだが、そこには国際政治の力学が反映される。4年前のブラジル大会の覇者、ドイツは「独り勝ち」といわれる絶頂期だったが、今回のロシア大会では第1次リーグで敗退した。女帝だったメルケル首相が難民問題で窮地に陥っているのと重なる。
反難民の極右・ポピュリスト(大衆迎合主義)政権の登場を許したサッカー大国、イタリアは、60年ぶりでワールドカップに参加できなかった。難民受け入れを拒否するポーランドも第1次リーグで姿を消した。ワールドカップさなかに開いた欧州連合(EU)首脳会議は、難民問題をめぐって大荒れになった。かろうじて決裂は回避したものの、危機の芽は消えていない。ワールドカップははからずもEUが抱える難民問題の深刻さを浮き彫りにした。
「独り勝ち」から転落したドイツ
世界ランク1位で前回大会の覇者、ドイツが第1次リーグ最下位で敗退するとはだれが予想しただろう。1回戦敗退は、ナチスが進出した1938年大会以来80年ぶりで、いわば「歴史的敗退」である。サッカー好きで知られるメルケル首相は、4年前にはブラジルを訪問してスタンドで応援した。優勝に感激し、ガッツポーズまで見せた。そこには経済、政治、外交からサッカーまで「独り勝ち」ドイツの姿が投影されていた。
しかし今回は、それどころではなかった。メルケル首相は連立与党内で難民問題をめぐって突き上げられている。キリスト教民主同盟(CDU)と長く同盟を組む姉妹政党、キリスト教社会同盟(CSU)のゼーホーファー内相がイタリアなど他のEU加盟国で難民申請した人を国境で追い返すと強硬姿勢を示したのである。CSUの地盤である南部バイエルン州の州議会選挙を10月に控え、極右勢力の台頭に危機感を募らせているからだ。
メルケル首相は、EU内で難民問題を打開できなければ、内相解任か連立崩壊かという危機に直面した。それを見て連立を組む社民党(SPD)は選挙準備を始めたほどだ。
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