東独出身の科学者だったメルケル首相は、コール氏に見いだされた政治家になった。環境相に抜擢され、地球温暖化防止のための京都議定書の策定にあたった。「コールの娘」といわれるほど登用されたが、コール氏の裏金問題では批判の先頭に立ち、晩年のコール氏との関係はぎくしゃくした。しかし、コール氏の死去に「コール氏は私の生きる道を決定的に変えた」と感謝を繰り返した。コール氏の恩に報いるには、秋の総選挙で4選を果たし、マクロン大統領と組んでEU再生に立ち上がるしかないだろう。

ドイツに敗れた日本

 コール氏の死去に世界の指導者はいっせいに弔意を表した。マクロン大統領は「偉大な欧州人を失った」と述べ、ユンケルEU委員長は「コール氏なしにユーロはなかった」とユーロ創造を称えた。プーチン・ロシア大統領は「冷戦終結やドイツ統一に重要な役割を果たした」と語り、トランプ米大統領も「ドイツ統一の父であり、米欧関係の推進者だった」と述べた。

 世界中の指導者が一斉にコール氏の死を悼むなかで、日本政府の対応は遅れた。安倍晋三首相が弔意を表したのは死去(16日)の2日後の18日だった。コール氏と親交があった中曽根康弘元首相の弔意よりも遅れた。安倍首相は地球を俯瞰する外交を歌い文句にしているが、冷戦終結後の世界の枠組みを作った歴史的人物へのメッセージはなぜ遅れたか。日本政府の歴史観、世界観の乏しさをみせつけられた。

 同じ敗戦国として日独は、ともに「奇跡の経済復興」を遂げた。戦後の一時期、互いにライバル視してきたが、いま大きな差をつけられている。日本は先進国最悪の財政赤字を抱える一方で、ドイツは財政黒字を達成している。日本に新規ビジネスがなかなか生まれない一方で、第4次産業革命はドイツ発である。日本が近隣諸国と関係をなおぎくしゃくさせているのに対して、ドイツは近隣諸国との和解をいち早く実現し、EUのリーダーとして存在感を示している。

 日本はドイツに敗れたのである。コール氏の死去は改めてこの冷厳な現実を思い起こさせる。

まずは会員登録(無料)

有料会員限定記事を月3本まで閲覧できるなど、
有料会員の一部サービスを利用できます。

※こちらのページで日経ビジネス電子版の「有料会員」と「登録会員(無料)」の違いも紹介しています。

※有料登録手続きをしない限り、無料で一部サービスを利用し続けられます。