MMコンビでEU再生
マクロン大統領が信認を集めたのは、極右のルペン氏が反EU、脱ユーロを打ち出すなかで、それに影響されることなく、EU統合の深化を真正面から訴えたところにある。ユーロ共通予算の編成やユーロ財務省の創設など、ユーロ再生に欠かせない「財政統合」に踏み出しているのが特徴である。金融政策は一つでも財政政策はバラバラというユーロの構造的欠陥を是正しようというものだ。そこには、欧州主義の立場に立つシンクタンク、ブリューゲルの所長をつとめたピサニフェリー・パリ大教授ら正統派経済学者の考えが強く反映されている。
このマクロン大統領のEU統合の主張が、移民、難民や所得格差など難題を抱えるEU内でどこまで浸透するかである。カギを握るのは、EU内で独り勝ちを続けてきたドイツとの連携を復活させられるかどうかである。
ドイツのメルケル首相はEU内で圧倒的な指導力を誇ってきた。いち早く財政黒字を達成し、経常黒字を膨らませ、失業率を低下させた。第4次産業革命もドイツ発である。しかし、財政均衡一辺倒のドイツ流がギリシャなどユーロ圏の弱い輪の再生の前に立ちはだかってきたのも事実である。
EU内の「ドイツ問題」はしかし、「フランス問題」の裏返しでもあった。メルケル首相とサルコジ仏大統領の関係は「メル・コジ」と呼ばれた。ドイツ上位の独仏関係だった。それ以上に「オランド仏大統領はどこに行った。どこにもオランド」といわれるほど、オランド政権下でフランスの位置は低下した。メルケル首相の信認が高まるなかで、独仏首脳の落差は広がるばかりだった。
その「フランス問題」を克服するには、ドイツに比べて出遅れた労働市場改革や税制改革を通じて、成長力を高められるかどうかにかかっている。投資銀行家や経済相をつとめた経験は、マクロン流の成長戦略策定に役立つだろう。安定した政治基盤を背景に、国内改革を断行することが求められる。そうして初めて、財政規律一辺倒のドイツ流の戦略を超えて、財政規律と成長戦略のバランスを回復することができる。
ドイツでは秋の総選挙で、メルケル首相の4選が確実視されている。「メルケル・マクロン」の強力なMMコンビは、EU再生を主導し、グローバル・アクターとしてのEUの存在感を高める可能性を秘めている。
反トランプのリーダー役
マクロン大統領は、BREXIT(英国のEU離脱)、米国のトランプ大統領の登場と相次いだポピュリズムの潮流を反面教師にして勝ち上がってきた。逆説的にいえば、BREXITをめぐる英国の大混乱と世界を巻き込むトランプ流排外主義のおかげで、急浮上した面がある。
とりわけ、トランプ大統領はオバマ前大統領がまとめあげた国際合意からことごとく離脱して混乱を招いている。環太平洋経済連携協定(FTA)からの離脱はその第一歩だった。北米自由貿易協定(NAFTA)見直しも保護主義を超えた排外主義といえる。
そして地球温暖化防止のためのパリ協定からの離脱である。パリの同時多発テロの直後に、オランド仏大統領のもとでまとまったパリ協定からの離脱を、最も強く批判したのはマクロン大統領だった。
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