何より第2次大戦中の米国による広島、長崎への原爆投下を最後に、核兵器は一度も使用されていない。核兵器使用が人類と地球にいかに甚大で悲惨な結果をもたらすかを広島、長崎からの粘り強い発信を通じて、世界中が認識しているからだ。
国際政治の世界では「核の先制不使用」が論議されることがあるが、核兵器そのものが使用することを許されない武器なのである。核使用は国家どころか地球そのものを破壊させる。人類の危機である。
朝鮮半島の非核化は米ロ中の核軍縮と合わせて
朝鮮半島の非核化を実現するうえでCVIDが欠かせない条件であることはいうまでもない。国際原子力機関(IAEA)の査察など国際監視が重要になる。日本も含めて関係国は核廃棄のために一定の経済支援も求められるだろう。
それだけではすまない。朝鮮戦争の終結プロセスに参加する米ロ中という当事国は、核軍縮に取り組む責務がある。トランプ米政権がオバマ前政権の「核兵器なき世界」をめざす核軍縮の潮流を逆行させ、小型核兵器開発など核軍拡に動いているのは深刻な問題だ。時代錯誤も甚だしい。このトランプ政権の動きに対抗して、ロシアのプーチン政権も核増強を表明している。ソ連崩壊の教訓をもう忘れたのだろうか。米ロの核軍拡競争が始まるとすれば、歴史の皮肉である。
北朝鮮に最も大きな影響力をもつ中国は、オバマ政権下で世界的な核軍縮の機運が高まっていた際にも、独り核軍拡に取り組んでいた。それが海洋進出と合わせて超大国・米国に対抗する軍事的拡張の一環だとすれば、危険である。
朝鮮半島の非核化を実現し、朝鮮戦争を終結して北東アジアの安定を確保するうえで、核保有国である米ロ中の責任は大きい。米ロ中は足並みをそろえて、核軍縮を進めることが求められる。
唯一の被爆国としての地球責任
米朝合意を受けて試されているのは、日本の外交である。安倍晋三政権が主権国家として北朝鮮の拉致問題に取り組むのは当然である。トランプ大統領にあっせんを依頼するだけでなく、日朝首脳会談の開催をめざすのは理解できる。しかし、唯一の被爆国である日本の外交に求められるのはそれだけではない。米朝合意を「核兵器なき世界」につなげるための外交である。
唯一の被爆国であるにもかかわらず、日本が核兵器禁止条約に加盟しないのは、痛恨の極みである。ドイツなど北大西洋条約機構(NATO)加盟国も核兵器禁止条約に加わっていないが、唯一の被爆国としての地球責任は同盟より重いはずだ。米国の「核の傘」にありながら、核兵器禁止条約に加盟するのは矛盾だという声もあるが、同盟と地球責任では次元が違う。核兵器禁止条約に加盟したうえで、米ロ中など核保有国に徹底した核軍縮を求めるのが筋である。
合わせて、広島、長崎からの核廃絶への発信をさらに強化することだ。来年の大阪での20カ国・地域(G20)首脳会議の際には、首脳の広島訪問を呼び掛けるべきだ。
世界の論者のなかには、日本も核武装を目指すべきだなどという暴論を吐く向きもある。原子力発電技術の蓄積もあり、日本が核開発に動くのではないかという疑念があるのは事実だ。国際社会からプルトニウム保有の抑制を求められるのはそのためだろう。こうした疑念を払拭するためにも、日本はいまこそ「核兵器なき世界」への外交の先頭に立つべきである。
トランプ追随から大転換を
北朝鮮問題をめぐる安倍政権の外交はトランプ政権への追随が目に付いた。北朝鮮への「最大限の圧力」では、最初は日米連携が功を奏したが、トランプ大統領による米朝対話路線への転換で、安倍外交ははしごを外された。トランプ追随を続けるだけでは、朝鮮半島の非核化と安定のために応分の負担を超えた巨額の負担を強いられる可能性も残る。
トランプ外交への追随から転換するうえで、カギを握るのは、「核兵器なき世界」への日本の主体的外交である。「核兵器なき世界」は、唯一の被爆国である日本の歴史的責任である。そうした主体的外交への転換こそ、朝鮮半島の非核化と安定に大きく貢献することになるだろう。
外交の軸を転換することによって、北朝鮮危機で「蚊帳の外」にあった日本は、重要な役割を演じられる。それは、安倍政権の優先課題である拉致問題の解決にも結び付くはずである。
Powered by リゾーム?