「弱者の恫喝」と「強者の恫喝」の対峙が、緊張を一気に高めたのは事実だろう。米朝首脳会談でどちらが勝ったのかは、今後の朝鮮半島の非核化と安定にかかっているが、米朝首脳会談が実現したことで、懸念された戦争の危機が回避できたことはたしかである。最悪の事態になれば、日本は最も大きな被害をこうむっていたかもしれない。この点で、米朝首脳会談は単なる政治ショーの領域を超える大きな意味をもっていたといえる。

核放棄への疑念はなぜ残るか

 今後の米朝協議を通じて、「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」(CVID)を達成できるか、国際社会はなお疑念をもっている。2005年の6カ国協議の共同声明がすべての核放棄を盛り込んだにもかかわらず、そのプロセスや期限を設定しなかったために、核放棄が実現されなかった苦い歴史がある。

 大きなコストと国家の威信をかけて取り組んできた核開発を北朝鮮は簡単に放棄できるのかという疑念がある。リビアや南アフリカのように核放棄に追い込まれた国はあったが、核開発はまだ初期の段階だった。これに対して、北朝鮮はそれを認めるかどうかは別にして、「事実上の核保有国」になったとみられている。

 北朝鮮が核開発に傾斜してきたのは、世界に「核保有の優位性」があると見てとったからだろう。どんな貧しい国でも「核保有国」という「地位」を獲得すれば、国際交渉力を大幅に高められる。それを考えると、核開発は相対的には割安だと判断してきたのかもしれない。北朝鮮がそうして獲得した「核保有国」の座を簡単に手放すのか、国際社会が疑念をもつのは当然かもしれない。

「核兵器」という幻想

 核兵器を保有することは「核抑止力」という安全保障上の絶対的な武器を手にすることになると考えがちだ。しかし、戦後の歴史を振り返れば、それがいかに大きな幻想であるかがわかる。

 冷戦で超大国・米国と核軍拡競争を繰り広げた旧ソ連は、財政破綻し崩壊した。欧州連合(EU)のなかで、英国とフランスは核保有国だが、最も信認され経済競争力も強いのは英仏ではなく、核兵器をもたないドイツである。インドに対抗して核保有を急いだパキスタンは、北朝鮮への核技術流出で国際批判を浴びた。貧困国からいつまでたっても抜け出せない。

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