米国のおひざ元にある国際通貨基金(IMF)や世界銀行など国際金融機関についても、ワシントン・コンセンサスが揺らぐ事態になれば、拠出見直しなどを求めることも考えておかなければならない。
イラン核合意からの離脱などで、国連安保理で孤立する事態になれば、さらに国連不信を強める危険もある。こうして国際協調嫌いが進行すれば、第2次大戦後の国際システムを根底から揺るがすことになりかねない。
米国社会はトランプ暴走をなぜ黙認するのか
米国社会は国際協調を無視したトランプ暴走をなぜあえて黙認するのか。トランプ政権がどんなに批判を浴びようとも、絶対的に支持する保守層が中西部を中心に一定割合あるのは事実だ。もちろん、東部やカリフォルニアには反トランプ色が濃いが、トランプ暴走を真正面から批判しえないのは自由で健全な米国社会とも思えない。
とくに2国間の貿易赤字を「損失」ととらえて、その解消を図ろうとするトランプ政権の過ちを説く経済学者が米国にほとんど見当たらないのは不思議である。世界で最も多いノーベル経済学者を生んだ先進国で、政権の無知に警告できないとすれば、経済学者の存在意義が問われるだろう。
自由でグローバルなビジネスを展開し圧倒的な競争力をもつ米国の経済界がトランプ大統領が掲げる保護主義にあえて警告しないのも気にかかる。大統領からの批判の的になることを避けているとすれば、まっとうな経済人とはいえない。米国経済は好調だから、事を荒立てることはないとトランプ暴走を黙認するなら、無責任である。
最大の問題は、そんなトランプ暴走に米国社会全体が慣れ切ってしまうことだ。トランプ大統領が大統領に批判的なメディアを「フェイク・ニュース」と切り捨て、自由な言論まで封じ込めようとするのは危険な兆候である。
問題残す安倍首相の対応
G7首脳会議で、安倍晋三首相の出方には問題が残った。一応、G6の立場に立って保護主義を批判はしたが、その一方で「貿易制限の応酬はどの国の利益にもならない」と述べ、トランプ大統領の鉄鋼輸入制限とEU、カナダによる報復措置にともに自制を求めたのは問題だった。あくまでトランプ保護主義そのものを槍玉にあげることに徹するべきだった。こと自由貿易の推進で、「米欧の仲介役」は日本が採るべき立場ではない。
日本もEUやカナダのようにWTOに提訴するとともに、報復関税を打ち出すしかないはずだ。米朝首脳会談を目前にして、核・ミサイル・拉致問題の包括解決をトランプ大統領に依頼した手前、トランプ大統領をいたずらに刺激したくないという思いはあるだろうが、北朝鮮問題と保護主義は別次元の課題である。それを混同して、「米国と一体」と唱えるのは、トランプ政権に足元をみられるだけである。
トランプ大統領には、保護主義、2国間主義をやめるよう求めるとともに、TPPと東アジア地域包括的経済連携(RCEP)を結合して、米国を呼び込むことが重要になる。さらに、EUとの経済連携協定を早期に実効あるものにすることだ。WTO体制とともにあるこうした多国間主義の複層的連携を広げることこそ日本の使命である。
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