
カナダのケベック州で開かれた日米欧主要7カ国(G7)首脳会議は、鉄鋼などの輸入制限を打ち出したトランプ米大統領と他の6カ国(G6)首脳と意見対立が先鋭化したが、ようやく「保護主義と闘う」との首脳宣言を採択して閉幕した。ところが、その3時間後、閉幕前に退出したトランプ大統領が、シンガポールに向かう機中から「首脳宣言を承認しないよう米代表団に指示した」とツイッターで表明した。
自動車の輸入関税を検討するためだという。これはまさに「強者の恫喝」である。それに屈しないG6首脳は、国際協調による「サミット精神」を貫いたといえる。トランプ大統領は地球温暖化防止のためのパリ協定やイラン核合意から離脱したが、G7首脳宣言からの離脱は「トランプ抜きの世界」を鮮明にするものである。
それでもG7時代は終わらず
今回のG7首脳会議が浮き彫りにしたのは、「G6プラス1」の構造である。保護主義、2国間主義に傾斜するトランプ米大統領と他の6カ国首脳との間には大きな亀裂がある。しかしこのG7の亀裂をみて、「G7の時代」は終わったとみるのは間違いだろう。超大国・米国の大統領が「強者の恫喝」を繰り広げるという異常事態が長続きするはずはない。このトランプ暴走に、どこまで国際協調に基づくサミット精神を貫けるかが問われていた。
今回のG7首脳会議はトランプ大統領の暴走ぶりとそれに徹底抗戦したG6首脳の落差を鮮明にした。どちらに正当性があるかは明らかだ。しかも、首脳宣言は関税障壁、非関税障壁、補助金を減らすなど公正な貿易をめざす方向を示し、トランプ大統領にも一定の配慮をしている。首脳宣言は苦心の産物だったのである。
トランプ大統領は、議長のトルドー・カナダ首相が鉄鋼、アルミニウムの輸入制限を「侮辱的」と述べ、報復措置を取ることに怒ったようだが、トランプ大統領が何と言おうと、いったん採択されたG7首脳宣言が消えることはない。マクロン仏大統領が「激情にかられて国際合意を揺るがせてはならない」と警告したのは当然である。
仏独が主導したサミット
先進国首脳会議(サミット)が創設されたのは、1975年11月である。サミット開催を提案したのは、ジスカールデスタン仏大統領とシュミット西独首相のパリ・ボン枢軸だった。石油危機後の世界経済の混乱を防ぐために、先進国主導で国際協調を構築するのが狙いだった。ジスカールデスタン・シュミットの仏独コンビは、ユーロの前身である欧州通貨制度(EMS)を創設するなど、仏独連携の礎を築いた。それがいまのマクロン仏大統領とメルケル独首相の「MMコンビ」につながっている。
サミットは仏独の呼びかけに、米英が応じ、それに日本とイタリアが参加して、G6で始まった。第1回会合はフランスのランブイエ城で開かれた。カナダが加わってG7になるのは、1976年の第2回会合からだ。
冷戦の終結を受けて、ロシアが加わりG8になった時期もあったが、ロシアのクリミア併合を受けて、G8は消滅し、いまのG7に戻っている。リーマン・ショックを受けて中国など新興国を加えたG20が創設されたが、大会議になりすぎて機能しにくいという面も指摘される。
その意味で、老舗のサミットであるG7首脳会議はなお存在感を保っている。この首脳会議には欧州連合(EU)からEU大統領と欧州委員長も加わるからEU色が濃くなることは事実である。国連安全保障理事会の常任理事国ではない日本にとっては、G7首脳会議は、最重要の国際舞台であることに変わりはない。
国際協調嫌いの行き着く先
今回のG7首脳会議で、トランプ大統領の国際協調嫌いはますます鮮明になった。環太平洋経済連携協定(TPP)、パリ協定、イラン核合意などオバマ前大統領のもとで実現した国際合意から相次いで離脱した。昨年のG7首脳会議でも保護主義や地球環境問題であつれきが目立ったが、今回は首脳宣言を承認しないことを表明したのだから、国際協調嫌いは決定的である。
トランプ大統領の批判の対象は世界貿易機関(WTO)に向けられている。G7各国などのWTO提訴で米国に不利になると判断すれば、多角的貿易体制の核にあるWTOそのものの在り方に厳しい要求を突き付ける可能性もある。
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