とくに、過半数を維持するために組まざるをえない北アイルランドの地域政党に政権を牛耳られることに、保守党内に警戒感がある。同じ保守政党ではあるが、EU離脱や経済政策ではかなりの差がある。メイ政権は単一市場・関税同盟からの撤退による「ハード離脱」の立場であるのに対して、この北アイルランドの地域政党・DUPはEUとの可能な限りの自由な貿易を維持したいと考えている。フォスター党首は早くも「ハード離脱は見たくない」とくぎを刺している。アイルランドとの自由な往来を求めているのはいうまでもない。経済政策では保守党が財政再建を主眼にしているのと対して、DUPは北アイルランドへの補助金増額を求めている。

 総選挙の結果を総合的にみれば、EU離脱そのものは実施するにしても、「ハード離脱」ではなく「ソフト離脱」が望ましいという声が相対的に高まったとみるべきだろう。EU離脱そのものに反対するスコットランド民族党(SNP)は54議席から35議席への大きく落ち込み、「ソフト離脱」の労働党は229議席から261議席へと大幅に伸びた。「ハード離脱」の保守党は330議席から過半数割れの318議席に落ちたのである。

 もっとも、「ソフト離脱」の声が高まったとしても、既定路線である「ハード離脱」の修正にも問題ははらむ。対応を誤れば、保守党内の首相への辞任圧力など政治の混乱を招きかねず、新たな危機の始まりになる恐れがある。

離脱交渉の混乱でポンド危機の恐れ

 メイ政権は予定通り19日からの離脱交渉に臨む方針である。EUのトゥスク大統領は「2019年3月の交渉期限に変わりはない」と2年間の交渉期限を改めて強調している。交渉開始が遅れれば、それだけ実質的な協議時間がなくなることになる。もちろんEU加盟の27カ国がすべて同意すれば、交渉期限を延期できるが、英国側の離脱交渉スタンスが固まらないままでは、交渉がいたずらに空転する恐れもある。EU側も離脱交渉が混迷すれば、その跳ね返りを心配せざるをえなくなるが、離脱の連鎖を未然に防ぐには、混乱期とはいえ英国に甘い顔はできない。

 交渉期間が長引くことで、英国経済に不透明感が強まれば、外資は対英投資を手控えるだろう。英国から欧州大陸のEU諸国へ拠点を分散する動きを強める可能性もある。対内直接投資の国内総生産(GDP)比が63%という極端な外資依存の英国経済は、外資の動きにますます揺さぶられることになる。

 外資流出が広がれば、ポンド安を通り越してポンド危機を招く恐れがある。それはスタグフレーション(景気停滞下の物価高)への道である。ポンド安による株高に浮かれている場合ではない。BREXITをめぐる混迷が長引けば、英国は「新英国病」に悩まされる時代に逆戻りする危険がある。