しかし、何より「ハード離脱」というメイ政権のBREXITの路線に英国民の不安が強まったためだろう。EUの単一市場から離脱する一方で、移民の規制は強化するのが「ハード離脱」である。これに対して、労働党は単一市場に残る「ソフト離脱」によって、経済への打撃を小さくするスタンスを取った。もともと国民投票でもEU離脱派と残留派は拮抗していただけに、離脱するとしても単一市場から離れる「ハード離脱」に不安を感じるのは自然だったかもしれない。

2度目の失敗に潜む「大国」のおごり

 メイ首相の失敗はEU残留か離脱かを問う国民投票に打って出たキャメロン前首相に続く「2度目のオウンゴールだ」。こう皮肉を込めていうのは、欧州議会議員でベルギー元首相のフェルホフスタット氏である。EU統合で「ツー・スピード(2速)」方式(意欲ある一部の国が先行して統合を進めるという方式)が現実味を増すなかでも、ひとり「欧州合衆国」構想を唱える極め付きの欧州主義者である。EUを巻き込む英指導者の相次ぐ失態によほど我慢ならないのだろう。

 たしかに、「鉄の女」サッチャー首相がいたら、キャメロン、メイと歴代政権が演じた失態は避けられたはずだ。サッチャー首相のユーロクラート(ブリュッセルのEU官僚)嫌いは有名だし、EUの運営をめぐっては、ジスカールデスタン・シュミット、ミッテラン・コールという仏独枢軸に対峙し、英国の「国益」を主張してきた。そのサッチャー首相でさえ、EU離脱という選択肢はありえなかっただろう。EU残留のために国民投票にかけることなど考えもしなかったはずだし、政権の求心力を高めるため総選挙前倒しという危険なカケに出ることもなかっただろう。

 BREXITをめぐる2度の失敗に潜むのは、「大国」のおごりである。英国経済はEUという巨大市場とそのEU市場に照準に合わせた外資によって存立している。EUから離れれば外資にも見放され、英国経済は存立しえない。EUあっての外資立国なのである。とりわけ「ハード離脱」は、英国経済にとって危険な選択である。

 EU(コモン・マーケット)を見限り、かつての英連邦(コモン・ウエルス)に戻るという考えもあるが、それは世界的スポーツである「サッカー」より英国伝統の「クリケット」を選ぶようなものだ。この連載の4月11日付の記事(「“サッカー”より“クリケット”を選んだ英国 BREXITの不経済学」)でもそう書いた。たしかに、何度もオウンゴールを繰り返すようでは、とても世界のスポーツ、サッカーでは勝てないかもしれない。

「ハード離脱」か「ソフト離脱」か

 英国総選挙での保守党の敗北はメイ政権を揺さぶることになるだろう。与党敗北にもかかわらず、メイ首相は続投を宣言し、ジョンソン外相、デービスEU離脱担当相、ハモンド財務相ら主要閣僚の留任を早々と決めた。過半数を実質的に維持するために、北アイルランドの保守政党、民主統一党(DUP)と閣外協力など連携を確認した。これに対して、躍進した野党・労働党のコービン党首は「支持も信頼も落ち、辞任の条件は十分ある」とメイ首相に辞任要求を突き付けている。保守党内でも首相の責任を問う声が高まる可能性がある。

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