パリ協定離脱は、石炭産業の雇用維持など目先の小さな利益につがっても、環境ビジネスというこれからの大きな成長機会を失うことになりかねない。米産業界の反発はそこにあるが、目先のディール先行のトランプ政権には長期的視野にたった「経済合理性」が欠けている。

 そこには、「反科学」とともに「反経済学」の姿勢がみられる。トランプ政権の特徴は、重要ポストへの経済学者の起用がまったくないことである。経済学者がこの政権に参加すれば、学者生命が絶たれると考えているかもしれないが、トランプ大統領自身の「反経済学」の姿勢が反映されている。

変わるソフトパワー・バランス

 トランプ大統領によるパリ協定離脱は、国際秩序を大きく塗り替えることになるだろう。米国はオバマ政権がめざしてきた国際協調による「賢い米国」への道から後退し、ソフトパワーを大きく失うことになる。

 このソフトパワーの空白を埋めるのは、独仏主導による欧州連合(EU)と中国だろう。G7サミットでの確執を受けて、メルケル独首相は「これからは他国に頼れない時代になった」と述べ、EUの結束を呼び掛けた。新任のマクロン仏大領が国民議会選挙を経て国内基盤を固められれば、独仏主導によるEUがグローバル・アクターとして指導力を発揮する可能性がある。

 米国とともにパリ協定を主導した中国もパワーの空白を埋めようとするだろう。しかしユーラシアの「一帯一路」構想と海洋進出をからめる戦略には、国際的な疑念が消えない。軍事的拡張をめざすかぎり、ソフトパワーは手に入れることはできない。ソフトパワーの空白は簡単には埋まらないだろう。それは国際社会をさらに混迷させる恐れがある。

甘すぎる日本の対応

 このソフトパワーの空白期に、日本への期待は高まるはずだが、トランプ大統領のパリ協定離脱の表明をめぐる日本の対応は甘すぎた。G7の各国首脳が即座にそれぞれ自らの言葉で発信しているのに、環境先進国である日本の安倍晋三首相の声は聞かれなかった。やっと週明けになって国会答弁で文書を読み上げただけだった。

 関係閣僚が批判を展開してはいる。麻生太郎副総理・財務相が、米国が第1次大戦後に国際連盟の創設を提唱しておきながら参加しなかったことを引き合いに出し、「米国はその程度の国だ」と捨て台詞をはいている。経済界からも批判が出ている。しかし、この地球の将来がかからむ重要問題には、首相が即座に自らの言葉で語るべきだった。

 トランプ大統領と親密であるために、批判をためらったとすれば、大きな問題である。こんなときこそ、友人として直言することが求められる。日本はパリ協定の批准も一歩遅れ、議論に参加できない場面もあった。京都議定書の発信国である日本の環境意識が低下しているとすれば、深刻だ。欧州諸国ととともに、パリ協定の順守に立ち上がることを鮮明にすべきである。

 そうでなければ、国際社会における日本のソフトパワーにも、環境ビジネスを通じた経済の競争力にも響きかねない。