一方で、第1の温暖化ガス排出国である中国の李克強首相は「パリ協定をしっかり履行し、国際責任を担う」として、EUと組んで米国に代わって地球環境問題を主導する姿勢を鮮明にした。

 トランプ大統領によるパリ協定離脱に国際社会から猛反発が起きているのは、パリ協定が地球危機を防ぐためにようやくまとめた「最後の手段」になっているからだ。地球温暖化防止は、1997年の日米欧による京都議定書が先行したが、途上国は含まれず、2001年には米国が離脱して、実効性が薄れていた。これに対して、2015年にまとまったパリ協定は中国、インドなど新興国を含め世界の大多数の国や地域が参加している。参加していないのはシリアとニカラグアくらいである。これまでに147の国、地域が批准している。米国の離脱で途上国に対する資金協力が滞ることになれば、国際的枠組みが揺らぐ恐れもある。

米自治体、企業にも強い反発

 トランプ大統領によるパリ協定離脱には、米国内にも反発が広がった。最も怒ったのは、パリ協定を主導したオバマ前大統領だろう。「未来を拒む少数の国になった」と口を極めて批判した。オバマ政権の国際合意を次々にくつがえすのがトランプ流だが、なかでもパリ協定からの離脱は我慢ならなかったようだ。合わせてオバマ氏はトランプ政権下でも米国は自治体や企業が地球環境をリードできると表明することも忘れなかった。

 たしかに米国内では環境問題においては自治体主導の色彩が濃い。京都議定書から米国が離脱しても自治体は環境先進自治体を競ってきた。トランプ大統領を批判する自治体は、パリ協定順守への独自の連合を結成し始めている。ニューヨーク、カリフォルニア、ワシントン州の3知事は連合を結成した。85の市もそれに続いた。

 トランプ大統領は「われわれはピッツバーグ市民であり、パリ市民ではない」と、いわゆるラスト・ベルトの選挙民のための離脱だと表明したが、当のピッツバーグ市長はパリ協定維持を宣言したのだから、皮肉である。

 米産業界は、トランプ離れを鮮明にしている。反発はゼネラル・エレクトリック(GE)、IBM、ウォルマートなど先端産業から流通産業まで広範な分野に広がっている。パリ協定離脱を歓迎しているのは、規制を逃れられる石炭産業など一部に限られる。

反科学・反経済学の危険

 国際社会だけでなく、米国内の批判にもかかわらず、トランプ大統領がパリ協定離脱に動いたのは、トランプ政権内にある反科学・反経済学の思考がある。「地球温暖化はまやかし」というスティーブ・バノン首席戦略官の考え方が色濃く反映されている。もともと米国内のキリスト教保守派に潜在するこの見方は、欧州の極右ポピュリズム(大衆迎合主義)とも連動するバノン氏によって増幅されたといえる。

 バノン氏はこのところホワイトハウス内の権力闘争で退潮を余儀なくされていたが、最側近で女婿のクシュナー上級顧問がロシア疑惑で影響力が低下するなかで、再び浮上してきている。「米国第一主義」がさらに広がる危険をはらんでいる。

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